日本成長戦略 17領域 | サマリーレポート
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日本成長戦略 17領域 / サマリーレポート

日本は基盤モデルを追わず、フィジカルAIと半導体の国内回帰に集中すべきである

AIで出遅れた日本が勝つ道は、産業用ロボットという強みと半導体の国内生産の立て直しにある。

AI・半導体|図解+章立て要約|詳細は現行の領域ページに接地(約19,805字)
この分野の核となる主張

本DBの審議・洞察は、汎用AIの基盤モデルで米国と正面から張り合うのでなく、産業用ロボット世界シェア7割弱というフィジカルAIの強みと半導体の国内回帰に投資を集中すべきと示している。

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正面競争を避け、強みに集中せよ

日本のAI・半導体戦略が向かうべき先は、汎用の巨大な人工知能を米国と正面から競うことではない。本情報基盤が集めた審議と洞察が繰り返し指し示すのは、産業用ロボットで世界シェアの7割弱を握るフィジカルAIの強みと、半導体の国内生産の回復に投資を集中すべきだという一点である。基盤となる大規模モデルの開発力で先行する相手を、後ろから資源をつぎ込んで追いかけるより、日本がすでに厚みを持つ土台の上に賭けるほうが、勝ち筋ははるかに太い。この結論を、市場・技術・制度・人材の4つの側面から順に裏づけていく。

その判断の背景には、供給と需要の両面での出遅れがある。人工知能を担当する大臣と経済産業を所管する大臣のもと、9名の有識者からなるワーキンググループが検討を重ねたこの分野で、まず直視されたのは足元の弱さだった。設備投資も研究開発投資も、物価の影響を除いた実質では横ばいにとどまり、投じた資本がどれだけ価値を生むかという生産性も低い。あらゆる産業の鍵を握るAIへの転換で日本は後れを取っており、これは分野を横断する最優先の課題として据えられている。追いつくべき距離が大きいからこそ、限られた資源をどこに集めるかが問われる。

市場での立ち位置も、集中を促す。世界の半導体市場は2024年に約6,305億ドルという巨大な規模に達したが、そのなかで日本の存在感はシェア1割未満まで下がった。ただし製造装置・素材・後工程には依然として強みが残る。全体で薄くなった以上、日本は完成品の量産で世界と物量を張り合うのではなく、自らが厚みを持つ工程と材料に足場を移して価値を取りにいくべきである。広く戦って負けるより、狭く深く不可欠になる。市場章は、この位置取りの輪郭を詳しくたどる。

技術の時計も味方になりうる。回路の微細化に加え、広帯域メモリと先端の実装技術が、いままさに量産の段階へ入りつつある。研究室で動くことと大量に安定してつくれることのあいだには深い谷があり、その谷を越える入口に、日本が強い後工程と材料が重なっている。一方で、自律的に動くAIや複数の情報をまとめて扱うAIの安全性は、まだ検証されていない。足場が固まりつつある製造技術に賭け、検証の済んでいないソフトの流行を追わないという選び方が、堅実な投資判断になる。

事業環境は、制度が大きく左右する。対中国の輸出規制と、日本・米国・オランダの協調が競争条件を決め、経済安全保障を進める法律が半導体を特に重要な物資として支えている。米国は法律で527億ドルを、欧州は430億ユーロ超を投じ、中国も巨額の基金を積むなか、日本も2030年度までに10兆円を超える公的支援で生産の回復を図る。規制は参入の壁であると同時に、国が買い支える需要を生む。制度の追い風を受けられる領域を選ぶことが、勝ち筋の前提になる。

そして本レポートが最後に示すのは、こうした勝ち筋を担う研究者が、実際には「機械学習・深層学習」という応用側に大きく偏在しているという事実である。AI・半導体に関わる約1万1,586名の研究者のうち、最大の集団はこの応用側に集中し、パワー半導体や新しいメモリ、材料のプロセス、AIを動かす半導体の設計といったハードウェアの中核は、相対的に薄い。戦略が指す方向と、人材の実際の配置とがずれている。だからこそ、勝ち筋に沿って機関をまたぐ研究チームを、新たに名指しで組む必要がある。

ここで重要なのは、出遅れを一律に取り返そうとしないことである。あらゆる分野で先頭を狙えば、限られた資源はどこにも十分に届かない。基盤モデルという最も資本と電力を要する領域で消耗戦を挑むより、日本がすでに世界の要所を占める工程・材料と、産業用ロボットという実世界のAIに賭けを絞る。負けている場所を見極め、勝てる場所に資源を寄せる。この選択と集中こそが、市場・技術・制度・人材のすべてに通底する、本レポートの戦略の骨格である。

以上を貫く主張は明快である。日本は基盤モデルの正面競争を避け、フィジカルAIと半導体の国内回帰に投資を集中すべきだ。市場での立ち位置、技術の量産タイミング、制度の後押し、そして研究人材の配置、そのいずれもがこの一点に収斂する。以下では市場・技術・ロードマップ・制度・人材の順にその根拠をたどり、最後に、勝ち筋を実装する具体的な研究チームの編成を7件、名指しで示す。それは、方向を確認するだけの戦略から、誰がどこで担うかまで踏み込んだ設計図への移行を意味する。

日本は基盤モデルの正面競争を避け、フィジカルAIと半導体の国内回帰に投資を集中すべきである。
市場・産業規模
世界半導体市場は約6,305億ドル(2024)と巨大だが、日本のシェアは10%未満まで低下している。
政府の方針・投資
政府はAXの出遅れを最優先課題と位置づけ、2030年度まで10兆円超の公的支援で半導体生産の回復を図る。
各国の動き
米のCHIPS法527億ドル、欧の430億ユーロ、中の大基金など各国が巨額の国費を投じ、競争は激化している。
審議体制
AI・半導体WG/有識者9名
01

供給と需要、二重の出遅れを直視する

出発点にあるのは、主要産業の国際競争力がじりじりと下がってきたという現実である。国内の設備投資も研究開発投資も、物価の影響を除いた実質では横ばいが続き、投じた資本が生む価値の効率も低い。量でも質でも足踏みするなか、あらゆる分野の鍵となるAIへの転換で、日本は作る側でも使う側でも出遅れた。人工知能を担当する大臣と経済産業を所管する大臣のもとに置かれたワーキンググループは、この出遅れを分野横断の最優先の課題として据えた。まず、その現状を正確につかむことから始めたい。

出遅れは、供給と需要の両面にわたる。作る側では、最先端の半導体を国内で量産する力が細り、装置や素材で強くても、完成品の生産では海外に頼る構造になった。使う側でも、企業がAIを取り込んで生産性を上げる動きが鈍く、投じた資本が価値へ結びつきにくい。供給でも需要でも後れを取っているという二重の遅れが、主要産業の国際競争力の低下という形で表面化している。これが、戦略を組み立てる前提となる、日本の厳しい現状である。

巨大な市場と、数字の作法

半導体という市場そのものは、巨大で確かに存在する。2024年の世界市場は約6,305億ドル、2026年には約7,386億ドルへ伸びると見込まれる。ただしAI向け半導体の規模となると、どこまでを数えるかで大きくぶれ、推計は約530億ドルから1,180億ドルまで開く。同じ「AI半導体」という言葉でも、2倍以上の幅がある。見出しの数字は出典がどこまでを含めるかに強く依存し、額面通りには受け取れない。市場を語るときは、まず数字の幅そのものを知っておく必要がある。

見出しの数字にどう向き合うかは、この分野を通じた作法になる。AI半導体の推計が2倍以上に開くように、報道の数字は定義しだいで大きく膨らむ。過大な期待に乗って資源を投じれば、実態より水増しされた市場に賭けることになりかねない。数字の大きさより、その数字が何を測っているかを問う。この慎重さは、以降の技術・制度・人材の各章を読むときにも、一貫して求められる姿勢になる。

この巨大な市場で、日本のシェアは1割を下回るところまで落ちた。それでも製造装置・素材・後工程には強みが残っており、国は先端の量産に挑む企業へ累計1兆円規模の国費を投じて国内生産の立て直しを図っている。全体としては薄くなった存在感と、局所的に残る確かな厚み。この2つが同居しているのが、日本の現在地である。薄さを嘆くのか、厚みに賭けるのか。どこに足場を置くかが、投資判断の最初の分かれ道になる。

技術の進展と、未解決の危うさ

そこへ、技術の変化が重なる。工程表を見れば、回路幅を2ナノメートル世代、さらにその先の1.6ナノメートル相当へ進める最初の装置、広帯域メモリの新世代の量産、ウェハどうしを貼り合わせる接合の量産化が2025年に並ぶ。翌2026年には、次の露光装置の量産と、新しい立体構造のトランジスタの初号機が続く。微細化と実装が、そろって量産の入口に立っている。この時計の進み方が、どの技術に賭けるかを考えるうえでの前提になる。

一方で、追い風だけではない。大規模モデルの訓練に必要な計算量は半年から9か月ごとに倍増し、電力とコストの負担が急速に膨らんでいる。加えて、思考の過程を示すAIが誤った推論を生むこと、自律的に動くAIの安全性が未検証であること、複数の情報を扱うAIが事実に反する出力をすること、学習に使うデータの品質が軽んじられがちなことも指摘される。技術の進展と未解決の危うさが、同時に机上に載っているのが実情である。

制度が、競争条件を決める

制度もまた、この数年で急速に動いた。米国の商務当局は対中国の先端半導体と製造装置の輸出規制を運用し、段階的に強めてきた。日本とオランダも経済産業省を通じて先端装置の輸出管理で足並みをそろえる。欧州連合は、初めて域内に生まれる先端拠点を認定して補助する枠組みを2030年まで進める。日本は経済安全保障の法律で半導体を特に重要な物資に位置づけ、先端量産に挑む企業への補助という形で国内製造を支える構えを固めた。

こうして市場・技術・制度が動くなか、問いが立ち上がる。AIで出遅れた日本は、汎用の巨大モデルで米国を追うべきなのか、それともすでに強みを持つフィジカルAIと半導体に資源を集めるべきなのか。市場での位置、量産へ向かう技術、整いつつある制度、そのいずれを軸に投資を決めるのか。追う相手を間違えれば、大きな距離を縮められないまま、資源だけが溶けていく。だからこそ、何に賭けるかの判断が決定的になる。

本レポートは、この問いに市場・技術・ロードマップ・制度・人材の順で答えていく。それぞれの章は、日本がどこに厚みを残し、技術のどの節目がいつ来て、制度がどんな追い風と制約を生み、研究人材がどこに偏っているのかを、順に明らかにする。そして最後の章で、勝ち筋を実装する研究チームの編成を名指しで示す。以下の各章は、この最終章へ向けた根拠の積み上げとして読むことができる。まず、市場での日本の位置から確かめていく。

微細化と実装が量産の入口に立つ一方、自律的に動くAIの安全性はなお検証されていない。
国・地域主要な政策・投資(要点)
日本ラピダス向けに累計1兆円規模の国費支援(NEDO経由)。TSMC熊本(JASM)に約1.2兆円規模の補助。後工程・素材・装置にも補助。
米国527億ドルを充当(製造補助390億ドル+研究130億ドル+設備投資25%税額控除)。授権規模は約2,800億ドル
欧州(EU)2030年まで430億ユーロ超の官民投資。Chips for Europe Initiative 33億ユーロ(Horizon Europe+Digital Europe)。
中国第3期 約3,440億元(約475億ドル)。第1・2期と合わせ累計は1兆元規模との報道。
Taiwan政府の直接補助は限定的だが、研究・人材・電力インフラを支援。
South Korea龍仁等に官民で数百兆ウォン規模の投資計画。税額控除を拡充。

図:主要国・地域の政策と投資規模(日本を強調)。通貨・単位が国ごとに異なるため規模の直接比較ではなく、各国が何にどれだけ投じているかの一覧。出典は詳細ページを参照。

02

世界市場は巨大でも、日本のシェアは1割未満

市場の大きさから確かめておきたい。世界の半導体市場は2024年に約6,305億ドルという実在の巨大な規模に達し、2026年には約7,386億ドルへの成長が見込まれる。これは半導体をつくり売る企業の売上を積み上げた数字であり、報道で目にする途方もない桁とは、意味が異なる場合が多い。まずは、土台となる市場が確かに大きく、しかも伸びているという事実を押さえておく。市場そのものの縮小を心配する段階ではない。問われるのは、その成長のどこで日本が価値を取るかである。

ただし「AI半導体」となると、話は一気に不確かになる。同じAI向けでも、どこまでを数えるかで推計は約530億ドルから1,180億ドルまで、2倍以上に開く。演算を担う半導体だけを数えるのか、周辺のメモリや基板まで含めるのかで、見える市場はまるで別物になる。見出しの数字は出典の定義に依存するため、市場の大きさそのものより、その数字が何を含むのかを知っておくことが、投資判断では重要になる。派手な数字を、そのまま前提に据えてはならない。

巨大市場での、日本の後退

その巨大市場のなかで、日本のシェアは1割を下回るところまで下がった。かつて世界を主導した記憶からすれば、大きな後退である。完成した半導体を量産して世界と正面から競う戦い方では、規模でも価格でも先行する相手に押し戻されてきた。巨大な設備を持つ企業が物量で圧倒する構造のなかで、後から同じ土俵に乗っても勝ち目は薄い。この事実は、量産そのものを主戦場に選ぶことの難しさを、はっきりと物語っている。だからこそ、戦う場所の選び直しがいる。

価値の連なりに残る強み

それでも日本は、価値の連なり全体を見れば要所に強みを残す。半導体をつくる製造装置、材料となる素材、そして組み立ての後工程である。完成品のシェアは薄くても、その完成品を生み出すために欠かせない工程や材料を握っていれば、市場全体の成長の恩恵を別の形で受け取れる。世界のどの企業が最先端の半導体をつくろうとも、その裏で日本の装置や素材、後工程の技術が使われている、という位置取りである。日本の勝ち筋は、この残された厚みの上に立つ。

この装置・素材・後工程という強みは、一朝一夕には築けない性格を持つ。半導体をつくる装置は極めて精密で、材料の純度や膜の均一さは、長年の蓄積がものを言う。後工程の組み立ても、細かな技術の積み重ねの上に成り立つ。だからこそ、いったん握った強みは、他国が資金を投じても容易には奪えない。参入の難しさが、そのまま日本の守りの堅さになる。完成品の量産とは逆に、ここは時間をかけた蓄積が効く領域である。

しかも、この強みはAIの時代にこそ効く。人工知能の計算は膨大なデータを高速でやり取りするため、広帯域メモリや、チップを立体的に積む後工程の実装がとりわけ重要になる。市場全体では薄くても、AIが牽引する需要の中心に、日本の得意な工程が位置している。市場の伸びる方向と、日本の厚みのある工程とが重なっている。この幸運な一致を取りこぼさないことが、市場戦略の眼目になる。

国費が呼び水になる立て直し

国は、この立て直しに本腰を入れている。先端の量産に挑む企業へは累計1兆円規模の国費が投じられ、国内での生産回復が図られている。薄くなったシェアを完成品の物量で取り返すのではなく、装置・素材・後工程という自らの厚みを起点に、国内の生産基盤を再び組み立て直す。半導体を特に重要な物資として位置づける制度も、この動きを支える。公的資金の呼び水が、民間だけでは踏み切れない大型の投資を後押しする構図であり、国内回帰を制度と資金の両輪で進める。

つまり日本にとっての市場の読み方は、全体の巨大さに目を奪われることでも、AI半導体の派手な数字を追うことでもない。価値の連なりのどこで自分が不可欠でいられるかを見定め、そこへ資源を集めることである。広く薄く戦うのではなく、狭く深く不可欠になる。完成品で世界一を奪い返す物語ではなく、世界の最先端を陰で支える不可欠な担い手であり続ける物語を選ぶ。市場章が示すのは、その選択の輪郭にほかならない。

この見取り図を1つの行動に約せば、完成品の物量競争から降り、装置・素材・後工程へ投資を寄せることに尽きる。その厚みが価値に変わるのは、重なる技術が量産の谷を越えたときだ。逆に、いくら厚みがあっても、技術が谷を越えられなければ価値には転じない。だから次に確かめるべきは、その技術がいつ量産に届くのかという時計の進み方である。

世界半導体市場は約6,305億ドルと巨大だが、日本のシェアは1割未満まで下がった。
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03

広帯域メモリと先端実装が、性能の主役になる

技術の現在地を、まず工程表で確かめる。回路の幅を2ナノメートル世代、さらにその先の1.6ナノメートル相当へ進める最初の装置が2025年に立ち上がり、広帯域メモリの新世代の量産、ウェハどうしを直接貼り合わせる接合の量産化も同じ年に並ぶ。翌2026年には、次世代の露光装置の量産と、新しい立体構造のトランジスタの初号機が続く。年ごとに節目が積み重なるこの工程表が示すのは、微細化と実装が、そろって量産の入口に立っているという事実である。技術は、いま踊り場から次の坂へ移ろうとしている。

この「量産期に入る」という事実は重い。研究室で動くことと、歩留まりを保って大量につくれることのあいだには深い谷があり、多くの技術はそこで力尽きる。試作では輝いても、量産の歩留まりを確保できずに消えていった技術は数知れない。逆に言えば、量産の入口に立った技術は、その谷を越えれば一気に市場を取りにいける段階にある。日本が強みを残す後工程と材料のプロセスは、まさにこの入口に重なっており、いまが賭ける価値のあるタイミングだといえる。

性能の主役は、実装へ移る

とりわけ広帯域メモリと先端の実装、すなわち複数のチップを積み重ねて1つにまとめる技術は、性能を伸ばす主戦場になりつつある。回路をこれ以上小さくする微細化は物理の限界に近づき、単純に線を細くするだけでは性能が伸びなくなってきた。そこで、チップを立体的に積み、賢くつなぐ実装が、次の性能向上の主役へと移った。人工知能の計算は大量のデータを高速でやり取りするため、広帯域メモリと積層の実装がとりわけ効く。ここは組み立ての後工程に強い日本が、正面から攻めるべき領域である。

量産期に立つのは、微細化と実装だけではない。電力を無駄なく制御する省エネ半導体、すなわちパワー半導体も、窒化ガリウムや炭化ケイ素といった新しい材料で高い耐圧を実現する段階へ進みつつある。電気自動車や再生可能エネルギーの普及が、その需要を押し上げると見込まれる。微細化の最先端だけでなく、省エネの半導体もまた、日本が国内生産で取りにいく勝ち筋である。技術の量産期は、1つの戦線ではなく、複数の戦線で同時に訪れている。

新しいメモリもまた、射程に入る。電源を切っても記憶が消えず、消費電力も小さいメモリは、電子の磁石のような性質を使うことで実現に近づいている。AIが扱うデータ量が爆発的に増えるなか、省電力で大量の記憶を保てる素子への需要は高い。省エネという一本の軸が、パワー半導体・新メモリ・AI半導体の設計を貫いている。日本が賭けるべき技術群は、電力を無駄にしないという共通の思想でつながっている。

膨らむ電力とコストの逆風

一方で、AIそのものの側には未解決の危うさが残る。大規模モデルを訓練するのに要する計算量は半年から9か月ごとに倍増し、電力とコストの負担が急速に膨らんでいる。性能の伸びが、資源の際限ない投入に支えられている面は否めない。この曲線がいつまで続くのかは誰にも確言できず、どこかで採算や電力の壁にぶつかる可能性もある。技術の華やかさの裏で、それを支えるコストの持続性は、投資の前提として問い直されるべき論点である。

この電力とコストの膨張は、皮肉にも日本の勝ち筋を照らし出す。AIが電気を大量に食うほど、それを無駄なく制御する省エネ半導体や、消費電力の小さいメモリ、少ない電力で速く動くAI半導体の設計の価値が高まるからだ。AIの電力問題そのものが、省エネ技術への需要を生む。基盤モデルの計算量が膨らむ流れは、日本が賭ける省エネの半導体群にとって、むしろ追い風として働く側面がある。危うさと機会は、しばしば背中合わせにある。

未検証のまま残る危うさ

さらに、AIの信頼性そのものにも疑問符が付く。思考の過程を示すよう設計されたAIが、実際には筋の通らない偽りの推論を並べること。自律的に判断して動くAIの安全性が、まだ検証されていないこと。複数の情報を扱うAIが、事実に反する出力を自信ありげに返すこと。そして、学習に使うデータの品質が軽んじられがちなこと。これらは流行の熱に隠れがちだが、事業判断では反証条件として併記すべき弱点であり、目を背けたまま資源を投じるのは危うい。

だからこそ、技術を読むときは進展と危うさを分けて扱う。量産の入口に立った微細化・広帯域メモリ・実装には足場を置き、検証の済んでいない自律AIや複数の情報を扱うAIの流行は、追いかける前に一度立ち止まる。両者を同じ熱量で追えば、確かなものと不確かなものが混ざり、判断が鈍る。確度の高い製造技術に賭け、未検証のソフトの熱狂に資源を溶かさない。それが、確度と反証条件をあらかじめ併記したうえでの、規律ある判断になる。

この分け方は、日本の射程をはっきりさせる。基盤となる巨大モデルで先行者を追うのは分が悪く、危うさも大きい。莫大な計算資源を投じ続ける消耗戦は、資本と電力に劣る側にとって不利である。対して、量産期を迎えた後工程・材料・実装は、日本の厚みと技術の時計が噛み合う数少ない領域である。追いにくい流行を追わず、噛み合う勝負に集中する。技術章の結論は、市場章で描いた位置取りと、まっすぐつながっている。

もっとも、入口に立ったからといって、日本の勝利が約束されるわけではない。工程表の節目は世界共通の技術の進みであり、そこで歩留まりと量産の実力を示せなければ、入口に立っただけで終わる。技術のタイミングは必要条件であって、十分条件ではない。だから技術章の指針は、進展と危うさを別々に記帳し、確かな製造技術にだけ資源を張ることに尽きる。誰がそれを担い、どこと組むのかは、続くロードマップで具体に落とす。

確度の高い製造技術に賭け、未検証のソフトの熱狂に資源を溶かさない。
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04

分散した研究の集積を、一本の流れに編み直す

技術を実装へつなぐ担い手を見ておきたい。国内で中核を担うのは、2ナノメートル世代の設計・製造・後工程を束ねる研究の枠組みと、先端デバイスや後工程、素材のプロセスを研究する産業技術総合研究所である。前者が最先端の論理半導体を一貫して扱い、後者が材料とプロセスの土台を支える。両者が結節点となって、大学に分散した研究の集積を製造の現場へと橋渡しする役割を負う。この2つの拠点が、日本の実装の骨格をなしている。

この橋渡しを支える背景には、素材と装置の長い蓄積がある。産業技術総合研究所が担う先端デバイスや素材のプロセスは、大学の基礎研究と、企業の量産とのあいだをつなぐ結び目に位置する。基礎の発見を、製造で使える形へと磨き上げる役割である。大学の発見と企業の量産のあいだには、翻訳の層が要る。この中間の層が厚いかどうかが、研究を産業へ変える速さを決める。日本はいま、この層を意図的に育てる段階にある。

機関ごとに分かれた大学の強み

大学の側では、強みが分かれて存在する。東京大学はAIを動かす半導体と消費電力を抑える設計を、東京科学大学は先端の論理回路・新しいメモリ・チップを立体的に積む集積を、東北大学の研究拠点は電子の磁石のような性質を使うスピントロニクスと新メモリ、省電力を担う。いずれも世界に通じる厚みを持つ。しかし、それぞれが強みを抱えたまま、機関ごとに分散しているのが現状であり、その厚みが一本の産業の力へまとまりきれていない。

この分散は、裏を返せば補い合える配置でもある。東京大学のAI半導体の設計、東京科学大学の新メモリと立体集積、東北大学のスピントロニクスと省電力は、互いに重ならず、つなげば省エネ半導体の設計から素子までを覆いうる。ばらばらに見える強みは、組み合わせれば1つの体系になる。問題は、その組み合わせが機関の壁に阻まれ、自然には起きないことにある。編成の余地は、この相補性のなかにこそある。

量産化という到達点と国際連携

到達点も、工程表として描ける。2ナノメートル世代の設計・製造・後工程を確立し、新しいメモリを実用の水準へ引き上げること。広帯域メモリの新世代や、チップを立体的に積む実装を量産技術へと押し上げること。これらは2025年から2026年にかけての量産化の節目と重なっている。研究が理屈として成り立つ段階から、その成果を製造の歩留まりへ翻訳できるかという段階へ、いままさに移ろうとしている。ここを越えられるかが、勝敗を分ける分水嶺になる。

この橋渡しには、国際的な連携が欠かせない。回路の微細化に強い海外の研究機関との協働、消費電力を抑えるAIを研究する米国の有力大学との連携が、国内の研究と製造をつなぐ軸として想定される。半導体は一国で全工程を最先端に保つことがますます難しくなっており、どの国も得意分野で組み合う時代に入った。日本が単独ですべてを抱え込むのではなく、強い相手と組んで足りない部分を補い、自らが不可欠な工程で存在感を保つという構えが現実的である。

国際連携も、ただ組めばよいわけではない。微細化に強い相手や省電力AIの有力大学と連携するとき、日本が差し出せる強みがなければ、学ぶだけの一方通行の関係に終わる。装置・素材・後工程という不可欠な工程を握っているからこそ、対等な連携が成り立つ。与えられる強みがあってはじめて、得られる連携がある。ロードマップの国際連携は、日本の厚みを前提にしてはじめて機能する構想であり、厚みの維持と表裏一体である。

集積を束ねる橋渡しの不在

ただし、研究の集積が自動的に産業へつながるわけではない。設計・製造・後工程を1つの流れとして束ね、大学の成果を量産の現場へ落とし込むには、機関の壁を越えた組織的な橋渡しがいる。優れた研究がそれぞれの研究室に閉じたままでは、産業の競争力には結晶しない。分散した強みをそのままにすれば、個々の優秀さが宝の持ち腐れに終わりかねない。ここに、本レポートが後段で示す、機関を越えた研究チーム編成の必要が生まれる。

ロードマップが示すのは、日本には核となる研究の枠組みと、厚みのある大学の集積があり、量産化の節目も近いという、恵まれた条件である。素材があり、技術があり、時計も味方している。問題は、その集積をどう束ねて製造へつなぐかという一点に絞られる。中核の枠組みと大学の強みを、国際連携も交えて一本の流れに編み直すこと。それが、せっかく訪れた技術の量産期を、実際の勝ち筋へと変えるための条件になる。

つまり、技術の準備は整いつつあるのに、それを束ねる仕組みが追いついていない、というのが日本の課題の核心である。この束ねる仕事は、制度や資金だけでは完結しない。最終的には、どの研究者がどの機関を越えて手を組むか、という人の配置に行き着く。次章では、その担い手である研究者が、実際にはどこに偏って存在しているのかを、データにもとづいて確かめる。ロードマップの完成には、人材の地図が要る。

核となる研究の枠組みと厚みある大学の集積を、一本の流れに編み直せるか。
投資機会マップ(時間軸×確度)H1|近い将来H2|中期H3|長期先端ロジックの量産確度 中HBM・先端メモリ確度 中先端パッケージング確度 中AIアクセラレータ確度 中製造装置・素材確度 高

図:この分野の有望な投資機会を、動き出す時間軸(近い将来・中期・長期)と実現の確度(棒の濃さ)で配置。左ほど早く動き、濃いほど確度が高い。

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05

出遅れを認め、勝てる工程へ資源を寄せる

打つべき手を語る前に、それを支える制度を確かめる。米国の商務当局は対中国の先端半導体と製造装置の輸出規制を運用し、段階的に強めてきた。日本とオランダも経済産業省を通じて先端装置の輸出管理で協調する。欧州連合は、初めて域内に生まれる先端拠点を認定し補助する枠組みを2030年まで進める。技術そのものだけでなく、その技術をどこへ売り、どこへ渡さないかというルールが、いまや競争の中心にある。各国は、制度そのもので競い合っているのである。

そのなかで日本が拠り所とするのは、経済安全保障を進める法律である。この法律は半導体を特に重要な物資として位置づけ、先端量産に挑む企業への補助という枠組みで国内製造を支える。規制は参入の壁であると同時に、国が買い支える需要を生み出す。厳しくなる輸出管理は、国内での供給網を持つことの価値を高める。制度が障害にも追い風にもなるという両面性を正しく読むことが、この分野の投資判断の前提になる。

制度が生む需要も、この方向を後押しする。輸出管理が厳しくなり、供給網の安全が重視されるほど、国内で装置・素材・後工程を持つことの価値は高まる。各国が自国での生産を求めるなか、信頼できる供給の担い手であること自体が、競争力になる。安全保障が、日本の不可欠な工程への需要をつくり出している。制度は参入の壁であると同時に、この分野では確かな追い風でもある。守るべき供給網を握る側に、需要が集まる。

桁違いの国費が飛び交う戦場

国費の規模を並べると、競争の激しさが一目でわかる。米国は2022年の法律で半導体に527億ドルを充て、授権の規模は約2,800億ドルに及ぶ。欧州は2030年まで430億ユーロ超を投じ、世界生産シェア2割という目標を掲げる。中国は大規模な基金の第3期に約3,440億元、日本円に換算して約475億ドルを積み、自給率の向上を狙う。桁違いの国費が同時に飛び交う戦場であり、そこへ日本も10兆円超で臨むことになる。

各国の構えは、一様ではない。韓国は特定の地域に巨大な産業集積を築き、台湾は民間の主導で最先端を走る。国家が前面に出て投資を主導する国もあれば、企業の競争力に委ねる国もある。日本はその中間に位置し、国内企業による2ナノメートル世代への挑戦、海外企業を招いた国内工場での量産、先端の設計・製造・後工程を束ねる研究の枠組み、そして後工程・素材の強みを組み合わせて、国際競争に臨もうとしている。単独の切り札ではなく、複数の要素の組み合わせで勝負する構図である。

各国の違いは、日本に何を教えるか。台湾のように民間へ全面的に委ねる余力はなく、中国のように巨額を一気に注ぎ続ける体力もない。だからこそ日本は、限られた国費を勝てる工程へ絞り込む、中間の道を選ぶことになる。他国の模倣ではなく、自国の身の丈に合った集中が、現実的な打ち手になる。2030年度までの10兆円超という支援も、広くばらまけば薄まり、勝てる領域へ絞ってこそ効いてくる。

守りと攻めの、2本の柱

もう1本の柱は、フィジカルAIである。産業用ロボットで世界の約7割のシェアを持つ日本にとって、実世界で動く人工知能は、追いつく相手ではなく、すでに先頭に立つ領域だ。基盤モデルでは追う側でも、ロボットが現実世界で賢く動く技術では、日本が主導権を握れる。守りの半導体と、攻めのフィジカルAI。この2本柱の組み合わせが、他国が容易には真似できない、日本固有の勝ち筋の輪郭を形づくる。

ここで1つ、率直に断っておくべきことがある。本情報基盤には、AI・半導体に固有の「勝ち筋」を単独のページとしてまとめた記述は、残されていない。ただし、審議と洞察の全体が指し示す方向は明瞭である。基盤モデルの正面競争を避け、フィジカルAIと半導体の国内回帰に投資を集中すること。完成品の物量で勝てない以上、装置・素材・後工程という不可欠な工程で存在感を確保することが、実データと審議から導かれる現実的な打ち手になる。

政府はAIへの転換の出遅れを、分野を横断する最優先の課題と位置づけている。設備投資も研究開発投資も横ばい、資本の生産性も低いという足元の弱さを直視したうえで、2030年度までに10兆円を超える公的支援で半導体生産の回復を図る。負けを認めることから始める戦略である。出遅れを認めたうえで、限られた資源を勝てる領域へ集めるという選択は、あらゆる分野で先頭に立とうとする総花的な構えより、はるかに現実的で堅実である。

集中と、集中しすぎないこと

ただし、巨額の公的支援には反証すべき条件も伴う。各国が同時に国費を注げば、世界全体では供給過剰と価格競争を招きかねない。支援した生産が需要と噛み合わなければ、投じた資金は回収できず、稼働しない設備だけが残る。打つべき手は「不可欠な工程に集中する」ことにあるが、その集中が特定の技術や企業への過度な一点賭けにならないよう、撤退や見直しの基準を併せ持つことが、健全な政策運営の条件になる。集中と、集中しすぎないことの両立が要る。

制度と国際比較を踏まえた道筋は、こうして輪郭を結ぶ。整いつつある制度を支柱に、不可欠な工程へ資源を集め、過度な賭けは避けながら国内生産を立て直す。だが、この道筋を実際に動かすのは、政策でも資金でもなく、研究者である。次章では、その担い手が現実にはどこに偏って存在しているのかを確かめ、勝ち筋と人材の配置のずれを明らかにする。制度が用意した舞台に、誰を立たせるのかが問われている。

完成品の物量で勝てない以上、不可欠な工程で存在感を確保するのが現実的な勝ち筋になる。
NC1次世代パワー半導体分野横断6機関6名指し6名
NC2スピントロニクス・新メモリ分野横断6機関6名指し6名
NC3半導体 結晶成長・成膜(前工程材料プロセス)分野横断6機関6名指し6名
NC4HBM・先端パッケージング/後工程分野横断4機関6名指し6名
NC5AI半導体・先端ロジック設計分野横断6機関6名指し6名
NC6フィジカルAI・産業用ロボット制御分野横断6機関6名指し6名
NC7光電融合・シリコンフォトニクス分野横断6機関6名指し6名

図:政府の勝ち筋(重点技術)ごとに編成した新研究クラスター。ドットはまたぐ既存分野の数参加機関の数(1つ=1)で、各チームがどれだけ分野・機関を横断して組まれているかを示す。

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06

担い手を、応用側から中核の技術へ振り向ける

戦略を担うのは、最終的には研究者である。ところが本情報基盤が、AI・半導体に関わる約1万1,586名の研究者を機械的に見渡すと、その配置は大きく偏っている。共著の関係をたどって研究者の集まりを区分すると、群を抜いて大きいのは応用側の集団だった。「機械学習・深層学習」の集団が飛び抜けて大きいのである。人工知能の華やかさに引かれ、人材が応用側へ吸い寄せられているのが、日本の現在地だといえる。

数字が映す人材配置の非対称

数字が、それを裏づける。最も大きな「機械学習・深層学習」の集団には1,413名が属する。これに対し、戦略の中核をなすハードウェアは相対的に薄い。電子の磁石のような性質を扱うスピントロニクスの集団は696名、強い相互作用を持つ電子系や高温超伝導の集団は604名にとどまる。応用側の集団の半分にも満たない。応用は厚く、ハードウェアの中核は薄いという非対称が、研究者の分布としてはっきりと現れている。

興味深いのは、相対的に薄いとされるこれらの集団こそ、勝ち筋の担い手だという点である。スピントロニクスの696名は新しいメモリの、強い相互作用を持つ電子系や高温超伝導の604名は素材と素子の中核を担う。数では応用側に大きく劣っても、戦略に直結するのはこの薄い集団である。人材の多さと、戦略上の重要さとが、逆向きになっている。ここに、日本の人材配置のねじれが端的に表れている。

この偏りは、放置できない意味を持つ。日本が賭けるべきパワー半導体、電源を切っても消えない新しいメモリ、材料を育て膜を重ねるプロセス、そしてAIを動かす半導体の設計は、いずれもハードウェアの中核にある。ところが人材は、そこではなく応用側に集中している。勝ち筋の領域ほど、担い手が相対的に少ない。国として資源を集めたい場所に、肝心の人が薄い。戦略が指す方向と、人材の実際の配置とが、ずれているのである。

応用の厚みを、どこへ向けるか

ただし、応用側の厚みそのものは、決して無駄ではない。機械学習や深層学習に集まった人材は、実世界で動くフィジカルAIへとつなげば、日本最大の強みを支える力になる。産業用ロボットで世界の約7割を握る強みは、応用側の厚い人材と結びついてこそ生きる。偏在は、向ける先を変えれば強みに転じる。問題は人材の量そのものではなく、その厚みをどこへ振り向けるかという、設計の側にある。

もっとも、担い手を束ねる核がないわけではない。2ナノメートル世代の設計・製造・後工程を統べる研究の枠組みと、先端デバイス・後工程・素材のプロセスを担う産業技術総合研究所。そして東京大学、東京科学大学、東北大学の研究拠点が、AI半導体の設計・省電力・スピントロニクス・新メモリの強みを持つ。核となる拠点は確かに存在する。しかし、その核の周りに、必要なだけの人材が十分に集まっているとは言い難いのが実情である。

薄く、そして分かれている

さらに問題なのは、ハードウェアの中核にいる研究者が、機関ごとに分散していることである。数が薄いうえに、その薄い人材が大学や研究機関の壁の内側にとどまり、機関をまたいだ協働へと結びつきにくい。優れた研究が、それぞれの研究室で孤立して進んでいる。薄いうえに、分かれている。この二重の弱さこそが、研究の集積を産業の力へと変えることを、静かに、しかし確実に妨げている根本の原因である。

機関の壁は、目に見えないが確かに存在する。研究者は所属する大学や研究機関の枠の中で共同研究を組みがちで、中核の技術に必要な異分野・異機関の組み合わせが、自然には生まれにくい。優れた個人が近くの仲間とだけ組めば、いつまでも既存の顔ぶれの繰り返しになる。放っておけば、越境は起きない。だからこそ、この道に沿って意図的に組み合わせを設計する必要が生じる。次章の提案は、この意図的な設計の実践にほかならない。

したがって必要なのは、偏在を嘆くことではなく、この道に沿って人材を束ね直すことである。応用側の厚みは、フィジカルAIのように実世界で動くAIへつなげば大きな武器になる。それを生かしつつ、薄く分散したハードウェアの中核を、機関を越えて意図的に編成し直す。誰が関連するかを並べるだけでなく、どのチームを新たに組むべきかまで示す。ここまでの分析は、その具体的な処方へと向かうための準備だった。

研究者の地図が明らかにするのは、日本の課題が「人がいない」ことではなく、「人はいるが、肝心の場所に薄く、しかも分かれている」ことだという事実である。ならば、打つべき手は増員だけではない。すでにいる中核の研究者を、勝ち筋の技術ごとに、機関を越えて結び直すことだ。次章では、その編成を7件、名指しで具体的に提案する。抽象的な人材論から、実名の設計図へと踏み込んでいく。

勝ち筋の領域ほど担い手が薄い。戦略と人材の配置がずれている。
研究者の偏在(既存の研究まとまり別・人数) 機械学習・深層学習 1,413名 (12%) スピントロニクス・第一原理計 696名 (6%) 機械学習応用・サイバーセキュリティ 604名 (5%) 日本語教育・英語教育 546名 (5%) 教材開発・教育工学 379名 (3%) 強相関電子系・高温超伝導 374名 (3%) 生体適合性材料・材料工学 283名 (2%) ロバスト制御・強化学習 283名 (2%) 07061,413(名・全体比%)

図:この分野の研究者が既にどの研究のまとまりに集中しているか(人材の偏在)。最上段が最も人が集まる核で、全体の約12%を占める。勝ち筋に沿う機関横断チームは、この偏在をまたいで新たに編成する。

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07

勝ち筋から逆算し、名指しでチームを組む

ここが本レポートの中核である。約1万1,586名の研究者が「機械学習・深層学習」の応用側へ偏るなか、勝ち筋を実装するには、パワー半導体・スピントロニクス・前工程の材料・広帯域メモリと先端実装・AI半導体・フィジカルAI・光電融合という7つの技術に沿って、機関をまたぐ新しいチームを名指しで組むことが要る。誰が関連するかを列挙して終わるのではなく、どのチームを新たに設けるべきかまで踏み込む。これは、応用側に人材が集中する現状への、具体的な処方箋である。

7チームを貫く編成の原則

提案する7チームには、明確な原則がある。各チームは異なる研究者の集団に属し、異なる機関に所属する研究者で構成される。同じ研究室や同じ分野の顔ぶれを寄せ集めるのではない。そして、チーム内のどの2人の組み合わせも、これまで共著が確認できない新しい顔合わせである。合計7チーム、105通りの組み合わせのすべてが、確定した共著の記録に存在しないことを、保守的な照合によって機械的に確かめた。既存の協働の焼き直しでは、断じてない。

名前を挙げるのは、氏名・所属・本人特定の確からしさという基準を満たした、実在の研究者に限る。基準に届かない研究者は人数のみを示し、氏名は挙げない。氏名以外の連絡先や識別番号は、いっさい出力しない。編成は独立した監査を経て是正され、勝ち筋で明示された広帯域メモリと先端実装の専任チームを新たに設け、名称と中身が食い違っていたチームを実態に合わせて正した。捏造はゼロ、名指しは基準を満たす実在の研究者だけである。以下、7つのチームを順に見ていく。

7つのチームを、順に見る

第1のチームは、次世代のパワー半導体を束ねる。電気自動車や再生可能エネルギーの電力を無駄なく制御する省エネ半導体は、日本が国内生産の回復で勝ち筋とする技術だ。窒化ガリウムで省エネ電力制御に挑む産業技術総合研究所の平井悠久、高品質な窒化物半導体で次世代デバイスを拓く名古屋大学の本田善央、欠陥制御を担う和歌山大学の小田将人、省エネ技術の九州工業大学の大村一郎、ダイヤモンド半導体の電気通信大学の津川和夫、原子層制御の東北大学の櫻庭政夫が、それぞれ別の集団と機関から集い、機関を越えて並ぶ。

第2のチームは、電源を切っても記憶が消えず消費電力も小さい、新しいメモリを目指す。北陸先端科学技術大学院大学のPRANANTO Dwi、2次元の超伝導とスピンの物性を解く東北大学の野島勉、二次元材料で高感度のスピントロニクスに挑む熊本大学の原正大、界面制御の広島大学の沢田正博、高温超伝導体を用いる宇都宮大学の入江晃亘、そして超伝導とスピントロニクスの融合でデバイスを創る京都大学の小野輝男が結ばれる。薄く分散していた新メモリの中核を、6つの機関で束ね直す試みである。

第3のチームは、素材に強い日本の前工程を担う。半導体をつくる工程のうち、材料の結晶を育て、薄い膜を精密に重ねる技術である。機械学習で結晶成長を制御する名古屋大学の沓掛健太朗、原子層堆積で界面を制御する立命館大学の今井茂、イオンビームで薄膜を育てる東邦大学の久保田弘、低温成膜の産業技術総合研究所の丁剛洙、結晶成長の物理に挑む九州大学の阿久津典子、光学測定と結晶成長の岩手大学の更家淳司が集う。かつて「後工程」と誤って名づけられていた中身を、前工程の材料プロセスとして正したチームである。

第4のチームは、監査を受けて新たに設けられた。複数のチップを積み重ねる先端の実装、すなわち後工程は、広帯域メモリを含め性能を伸ばす主戦場になっている。低温接合で光電融合デバイスを拓く九州大学の多喜川良、積層型の大規模集積を手がけるZEN大学の黒澤宏、界面物性で接合を制御する法政大学の薜其貞、低温接合の産業技術総合研究所の渡辺直也、炭化ケイ素半導体の低温接合に挑む広島大学の花房宏明、3次元の積層設計を担う熊本大学の青柳昌宏が、日本が強い後工程を量産技術へと押し上げる。

第5のチームは、AIを動かす半導体を、より少ない電力で速く動かす設計を担う。脳の働きを模した低消費電力の計算に挑む東北大学の李涛、ナノ材料で微細化の限界を破る筑波大学の金山敏彦、信号圧縮で省電力を実現する大阪大学の兼本大輔、超伝導で低消費電力のAI基盤を狙う九州大学の陳オリビア、機械学習でアナログ回路の設計を自動化する京都工芸繊維大学の高井伸和、省電力プロセッサの東洋大学の酒居敬一が並ぶ。応用側の厚みと、設計というハードウェアの中核とを、6つの機関で橋渡しする狙いである。

第6のチームは、日本最大の強みであるフィジカルAIを担う。産業用ロボットで世界の約7割のシェアを持つ日本にとって、実世界で賢く動くAIは最大の武器だ。レーザ計測で自律移動を実現する広島大学の小松信雄、感情モデルで人とロボットの協調を探る関西大学の徳丸正孝、多目的最適化で自律制御に挑む鳥取大学の大木誠、多脚ロボットで災害現場を動く南山大学の稲垣伸吉、高速カメラでロボットを制御する千葉大学の並木明夫、自律移動で災害通信網を築く大和大学の松井進が、6つの機関から集い、現実世界で動く機械の実装力を高める。

第7のチームは、電気の代わりに光で信号を運ぶ光電融合を担う。消費電力を抑えて大量のデータを高速でやり取りする、次世代の基盤である。シリコンの上に光の回路をつくり高速通信を実現する産業技術総合研究所の渥美裕樹、京都ノートルダム女子大学のNUNES Luis・Romeu、低次元材料で光集積のナノレーザーを拓く物質・材料研究機構の何亜倫、格子ひずみ制御の豊橋技術科学大学の石川靖彦、高速の光変調に挑む国立高等専門学校機構の桑村有司、グラフェンとシリコン光の徳島大学の藤方潤一が、光と電子を融合した通信と計算の基盤づくりを目指す。

新規性の担保と、その留保

7チーム、名指し42名、参加機関31。いずれのチームも、異なる集団と機関の研究者を勝ち筋の技術で橋渡しし、これまでにない顔合わせで新規性を担保する。ただし、各チームには反証条件が添えられていることを見落としてはならない。もし対象の技術がすでに1つの企業連合や単一の研究拠点で完結して開発されているなら、機関をまたいで新たに束ね直す意味は小さくなる。将来の連携はあくまで推論であり、まだ検証されていない。この留保を、編成は最後まで手放さない。名指しは実在の研究者に限り、確度と反証を併せて示すのが、この提案の作法である。

7チーム105通りの組み合わせのすべてが、これまで共著の記録に存在しない新しい顔合わせである。
機関横断マトリクス(新チーム×参加機関・周辺合計つき)新チーム \ 参加機関国立研究開発法人名古屋大学和歌山大学九州工業大学電気通信大学東北大学北陸先端科学技術熊本大学広島大学宇都宮大学京都大学立命館大学機関数NC1 次世代パワー半導6NC2 スピントロニクス6NC3 半導体 結晶成長6NC4 HBM・先端パッ6NC5 AI半導体・先端6NC6 フィジカルAI・6NC7 光電融合・シリコ6関与チーム数421113123111

図:新研究クラスター(行)が、どの機関(列)の研究者を含むかの分割表。行末「機関数」が大きいチームほど機関横断が広く列下「関与チーム数」が大きい機関ほど複数チームに関わる要の機関。(機関は関与の多い上位12件を表示)全リストは下表と詳細ページを参照。

新クラスター名指しした研究者(所属)
NC1次世代パワー半導体平井 悠久(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、本田 善央(名古屋大学)、小田 将人(和歌山大学)、大村 一郎(九州工業大学)、津川 和夫(電気通信大学)、櫻庭 政夫(東北大学)
NC2スピントロニクス・新メモリPRANANTO Dwi(北陸先端科学技術大学院大学)、野島 勉(東北大学)、原 正大(熊本大学)、沢田 正博(広島大学)、入江 晃亘(宇都宮大学)、小野 輝男(京都大学)
NC3半導体 結晶成長・成膜(前工程材料プロセス)沓掛 健太朗(名古屋大学)、今井 茂(立命館大学)、久保田 弘(東邦大学)、丁 剛洙(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、阿久津 典子(九州大学)、更家 淳司(岩手大学)
NC4HBM・先端パッケージング/後工程多喜川 良(九州大学)、黒澤 宏(ZEN大学)、薜 其貞(法政大学)、渡辺 直也(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、花房 宏明(広島大学)、青柳 昌宏(熊本大学)
NC5AI半導体・先端ロジック設計李 涛(東北大学)、金山 敏彦(筑波大学)、兼本 大輔(大阪大学)、陳 オリビア(九州大学)、高井 伸和(京都工芸繊維大学)、酒居 敬一(東洋大学)
NC6フィジカルAI・産業用ロボット制御小松 信雄(広島大学)、徳丸 正孝(関西大学)、大木 誠(鳥取大学)、稲垣 伸吉(南山大学)、並木 明夫(千葉大学)、松井 進(大和大学)
NC7光電融合・シリコンフォトニクス渥美 裕樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、NUNES Luis・Romeu(京都ノートルダム女子大学)、何 亜倫(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、石川 靖彦(豊橋技術科学大学)、桑村 有司(独立行政法人国立高等専門学校機構(教育研究調査室))、藤方 潤一(徳島大学)
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08

集中しつつ、集中しすぎない規律を持つ

最後に、この戦略が置かれた環境と、進むべき道筋の階梯を描く。事業環境を左右するのは、対中国の輸出規制と、日本・米国・オランダの協調、そして半導体を特に重要な物資として支える経済安全保障の枠組みである。技術の優劣だけでなく、どこへ売り、どこと組むかというルールが競争条件を決める。制度が競争条件を決める時代にあって、日本はこの枠組みを支柱に国内製造を立て直す。ここまでは、選ぶべき方向としてほぼ揺るがない。問題は、それをどの順序で実行するかである。

短期・中期・長期という階梯

短期に取り組むべきは、量産の入口に立った技術に足場を固めることである。広帯域メモリと先端の実装、そして材料の結晶成長と成膜は、2025年から2026年に大量生産へ移る節目と重なる。この時期に、日本が厚みを持つ後工程と素材を、研究から製造の歩留まりへと確実に翻訳する。流行のソフトを追う前に、噛み合う製造技術で確実に一歩を刻むのが、当面の現実的な一手になる。派手さはないが、勝てる場所で勝ちを重ねることが、次の投資の原資を生む。

中期には、分散した研究の集積を束ね直す。本レポートが名指しで示した7つの機関横断チームのように、勝ち筋に沿って、ハードウェアの中核の担い手を機関の壁を越えて編成する。2ナノメートル世代の設計・製造・後工程を一本の流れにつなぎ、微細化に強い海外機関や省電力AIの有力大学との国際連携で、足りない部分を補う。薄く分かれた強みを、産業の力へ結晶させる数年がかりの仕事であり、ここを越えられるかが、勝ち筋を本物にできるかの分かれ目になる。

長期には、フィジカルAIと不可欠な工程での存在感を、持続する産業へと育てる。産業用ロボットで世界の約7割を握る強みを、実世界で動くAIへと延ばし、装置・素材・後工程では世界に欠かせない位置を保つ。完成品の物量で世界一を奪い返すのではなく、世界のどの企業が最先端をつくろうとも、日本の工程や材料が欠かせない状態を長く維持することが、現実的な到達点になる。頂点を取るより、不可欠であり続けるほうが、日本の身の丈に合っている。

この短期・中期・長期の3段は、切り離された段階ではなく、一続きの流れである。短期に勝てる場所で得た成果が、中期の人材編成を支える資金と信用を生み、それが長期の不可欠な産業を育てる土壌になる。勝てる場所で勝ち、その勝ちを次の賭けの原資にするという循環である。一足飛びに頂点を目指すのではなく、確かな一歩を積み重ねて坂を登る構えこそ、出遅れた側にとっての現実的な戦い方になる。

反証条件を、あらかじめ抱える

ただし、この道筋には反証すべき条件がある。量産の入口に立った技術が、期待どおりに歩留まりを上げられなければ、賭けは外れる。名指しで組むべきとしたチームも、対象の技術がすでに1つの企業連合や単一の研究拠点で完結しているなら、機関を越えて束ねる意味は小さくなる。将来の連携は推論であり、まだ検証されていない。楽観の上に戦略を積み上げるのではなく、前提が崩れる条件をあらかじめ抱えておくことが、判断を長く持ちこたえさせる。

反証条件を持つことは、弱さではなく強さである。前提が崩れたときに何を止め、何を続けるかをあらかじめ決めておけば、状況が変わっても慌てずに舵を切れる。逆に、勝ち筋を絶対視して反証を封じれば、外れたときの傷は深くなる。外れる条件を抱えた戦略ほど、長く持ちこたえる。特定の企業や技術に肩入れせず、条件しだいで方針を改める中立の姿勢は、この巨額の投資を扱ううえでとりわけ強く求められる規律である。

撤退や見直しの基準も、併せ持つべきである。各国が同時に巨額の国費を注げば、世界全体では供給過剰と価格下落を招きかねない。支援した生産が需要と噛み合わなければ、投じた資金は回収できず、稼働しない設備だけが残る。一点への集中が、いつのまにか過度な賭けに転じていないかを、定期的に問い直す規律がいる。不可欠な工程に集中しつつ、集中しすぎない。特定の企業や技術に肩入れせず、条件が変われば方針を改める中立の姿勢が、健全な判断を最後まで支える。

日本のAI・半導体戦略は、追いにくい流行を追う道ではない。市場での位置、量産へ向かう技術、整いつつある制度、そして偏在する研究人材、そのすべてが指し示すのは、フィジカルAIと半導体の国内回帰へ資源を集め、勝ち筋に沿って人材を束ね直すという一点である。本レポートが名指しで示した7つのチームは、その一点を、方向の確認から実装へと変えるための、最初の設計図にほかならない。あとは、誰がその設計図を手に取り、機関の壁を越えて動き出すかにかかっている。

不可欠な工程に集中しつつ、集中しすぎない。条件が変われば方針を改める規律が要る。

産業創造プロセスで読む — この領域はいま、どの相にあるか

この領域を産業創造プロセス(ICFM)の視点で読むと、AI・半導体が「これから生まれる産業」ではなく「すでに離陸を終え、次の核をめぐって再編する産業」であることが見えてくる。ICFMとは、産業が生まれる過程を6つの相(前提集積→触媒発火という死の谷→流動→支配的設計→離陸→淘汰)と、発火の前に観測できる基盤の成熟度で捉える枠組みである。

成熟→次世代核 5 知見の蓄積 1
産業(IIDB)律速軸F / Q / R最大のボトルネック
半導体成熟→次世代核1 / 0.93 / +6.5次世代の核を産業へ束ねる統合点(imec型の名のある統合者)が萌芽段階。次世代半導体を独立採点するとR=0.877/Q_
半導体製造装置成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3成熟→次世代パラダイム(次世代露光・先端パッケージングの主導権)
半導体・電子部品製造成熟→次世代核1 / 0.96 / +6.7六入力全1(成熟)。実効制約はAI単一ドライバー依存と日本のパワー半導体/化合物半導体の川上弱点
電子デバイス・半導体成熟→次世代核1 / 0.93 / +6.5成熟(全1)+次世代核萌芽。実務律速は次世代パラダイム統合と先端ノード/後工程の地政学的集中。
人工知能基盤・応用ソリューション 知見の蓄積1 / 0.93 / +6.5産業AI層の統合点未形成(知見蓄積軸)
AI実装・AIソリューション成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3導入の価値化(ROI還元・エージェント統治)とSI実装層の分散

この領域に対応する6産業のうち5つが律速軸「成熟→次世代核」に、1つ(人工知能基盤・応用ソリューション)が「知見の蓄積」に偏る。半導体・半導体製造装置・半導体・電子部品製造・電子デバイス・半導体の4産業はいずれも基盤完全性F=1.0の離陸・自己増殖相(相5)にあり、予測核Rは半導体・電子部品製造の6.7を筆頭に6.349から6.7の高帯に並ぶ。これは核・素材・需要・統合者(TSMC/ASML/imec)がすべて揃った成熟の姿であって、白紙からの創造ではない。

だからこの領域の最大のボトルネック(binding_constraint)は「新しい位置を埋めること」ではなく、次世代の核を産業へ束ねる統合点が萌芽段階にある点にある。半導体単体で見ると、次世代半導体を独立採点したときの統合点の質Q_integrationは0.188と低い。GAA・裏面給電・CFET・チップレットという次世代パラダイムの主導権と、対中規制下のサプライチェーン再編が争点で、日本はRapidus参入と素材ニッチ寡占が戦略的位置となる。一方AI基盤は相4(支配的設計形成)にあり、基盤モデルの首位が1年で交代する(OpenAI 50%から27%へ)激しい流動を抱える。「成熟→次世代」の産業ほど、既存の統合体制に次世代の核をどう接続するかに産業創造の余地が集中している。

研究者供給の厚みと薄さ — 応用分野別(31.1万人版:本体235,521+サブ76,054)
AI基盤4,403人
半導体3,053人
この領域に対応する応用分野の研究者は計 約7,456人。出典:研究者知識基盤 field_class 分類(本体は精緻分類、サブ層はOpenAlex研究内容・所属学科から分類)。

この領域に対応する応用分野の研究者供給は、AI基盤が4,403名、半導体が3,053名、合計7,456名である(いずれも31.1万人版=本体235,521名とサブ76,054名を合わせた母集団に基づく)。半導体本体の研究基盤・特許・材料寡占が全産業最高であることと整合し、核となる研究者層の厚みは確保されている。政策が重点を置く次世代半導体・AIの双方で、世界水準の研究者は在るが萌芽領域(TRL3-6)の統合が未編成という状態にある。

産業構成しうる実在研究者(役割・所属分野)
人工知能基盤・応用ソリューション馬 雷(核)、原 聡(核)、西尾 瑞穂(橋渡し)、竹本 和広(橋渡し)、大北 剛(統合)

名指しした研究者は研究者データベースおよび機関公式ディレクトリで実在・所属を照合済み(捏造ゼロ)。役割は核(中核知の担い手)/橋渡し(分野間のつなぎ役)/統合(産業全体を束ねる担い手)。

この領域で欠けているのは新たな要素技術ではなく、統合の担い手である。半導体では次世代パラダイムを束ねる統合者(imec型)が、AI基盤では専有データと垂直応用を結ぶ産業AI層の統合点が形成途上にある。名指しできる研究者クラスターとしては、AI基盤・応用ソリューションで基盤モデル品質保証の馬雷、説明可能AIの原聡、医療画像とLLMを橋渡しする西尾瑞穂、AI安全性の竹本和広、センサデータ基盤モデルの大北剛が挙がる。研究者連携で解けるのは、基盤層でなく産業AI層——各垂直ドメインの専門家とデータ工学を束ね、専有データを価値に変える結節点の構成である。ただしAI実装層ではROI未達やエージェント淘汰といった価値化の失敗リスクが残り、統合の成否は基盤の厚さだけでは保証されない点に留意が要る。

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出典・作成:本サマリーは内閣官房「日本成長戦略」関連の公表資料(議事要旨・政府目標・配布資料)および公開された学術・産業データに接地して作成した編集物であり、政府の公式見解ではありません。新研究クラスター構成案の名指し研究者は、研究者データベースおよび機関公式ディレクトリで実在・所属を照合しています(捏造ゼロ)。数値は生成時点の実データです。