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防衛産業 サマリーレポート

唯一の需要家=政府の調達構造の下で、防衛生産基盤を立て直せるか

防衛産業|図解+章立て要約|詳細は現行の領域ページに接地(約18,713字)
この分野の核となる主張

本DBの審議・洞察は、唯一の需要家=政府の調達構造の下で、防衛生産基盤の再建がデュアルユースの双方向活用・ファストパス調達によるスタートアップ参入・GCAPと装備移転を軸とする国際共同開発の三点に懸かることを示す。

00

政策で決まる需要が、生産基盤再建の成否を握る

防衛産業は、政府(防衛省)が唯一の国内需要家となる特殊な市場である。買い手が1つに定まり、需要が政策で決まるこの構造の下では、企業が収益機会を見いだせるかどうかは、43兆円規模の整備計画がどこに向かうかに直接左右される。本レポートは、担当を経済産業大臣と防衛大臣、審議を防衛産業ワーキンググループが担い、18名の有識者が関わるこの領域を、民生と軍事の双方で使えるデュアルユース技術の視点から中立に読み解く。

本レポートの統べる主張は明快である。防衛生産基盤の再建は、3つの軸に懸かっている。第1に、民生技術と防衛技術を相互に行き来させるデュアルユースの双方向活用。第2に、調達手続きを速めるファストパス制度による、防衛を経験してこなかったスタートアップの参入。第3に、次期戦闘機GCAPと装備移転を軸とする国際共同開発である。この3つが噛み合ったときにのみ、政策で決まる需要が国内の生産基盤へと還流する。

市場の輪郭は数字が語る。世界の軍事費は2024年に約2.7兆ドルと冷戦後で最大級の伸びを示し、米国が約9,970億ドル、中国が約3,140億ドルを投じるのに対し、日本は約553億ドル規模にとどまる。日本は防衛費を2027年度に対GDP比2%へ引き上げ、2023年度から2027年度までに約43兆円を整備に充てる。規模の差は依然として大きいが、防衛生産基盤強化法と整備計画は、国内生産基盤への投資を後押しする要因となりうる。

重要なのは、この市場では需要の予測が政策の読み解きに置き換わる、という点である。多数の買い手が競い合う民生市場と違い、防衛では政府が何を・いつ・どれだけ買うかを決める。したがって企業にとっての収益機会は、市場の気まぐれではなく、整備計画という文書のなかにあらかじめ書き込まれている。買い手が1つであるという制約は、政策の方向を読めれば需要が予見できるという利点と表裏の関係にある。

戦い方も変わりつつある。安価で多種多様な無人機を大量に運用し、AIとネットワークで意思決定を速める新しい様式が現れている。商用ドローンの導入率は2026年に35%へ達すると見込まれる一方、群れを組んだ機体のサイバー防御や検知回避はなお実証段階にある。技術は2026年から2029年の量産基盤確立期、2030年から2036年のスウォーム拡張期を経て、2037年以降に自律戦闘と規制が分岐する射程を持つ。

制度の枠組みは重層している。防衛生産基盤強化法・装備移転三原則・外国為替及び外国貿易法・経済安全保障推進法・能動的サイバー防御の法制が積み重なり、参入と国際展開の条件を形づくる。2024年3月にはGCAP次期戦闘機の第三国への直接移転が条件付きで容認された。ただし装備移転三原則の5類型撤廃の議論は途上にあり、これらの制度がどう動くかが、企業の投資判断を大きく左右する。

人材の面では、日本の学術データベースに防衛専用の分類が薄く、研究者はデュアルユースの技術に散らばっている。分野に関わる研究者は全体で約3,069名にのぼるが、その多くは材料・制御・計算といった基盤技術の周辺に少人数ずつ、機関ごとにばらばらに営まれている。防衛に転用しうる知の蓄積は確かにあるが、それが防衛という目的の下に束ねられていないことが、この領域の構造的な弱点である。

本レポートの独自性は、最後の章にある。市場や技術の分析にとどまらず、日本が組むべき研究チームを、これまで共著の無い機関横断の組み合わせとして名指しで示す点にある。政府が最重要プログラムに掲げる次期戦闘機GCAPのシステム統合をはじめ、無人機・極超音速・レーダー・材料・水中・暗号・指向性エネルギー・宇宙状況把握・誘導航法という10の勝ち筋に、計59名の実在する研究者を配した。散在する知を束ね直す具体案を提示する点が、本レポートの核心である。

本レポートは、市場・技術・制度・人材・国際比較を順に辿り、最後に日本が組むべき研究チームを名指しで示す。防衛に資する技術の多くはデュアルユースであり、その基礎研究は大学と国立研究開発法人に広く散っている。散らばった知を、防衛という目的の下にどう束ね直すか。以降の各章は、政策で決まる需要という特殊な条件を踏まえつつ、この産業に流れ込む43兆円が、どこに収益機会を開き、どの技術と人材へ結びつくかを、実データに接地して中立に読み解いていく。

防衛は政府を唯一の需要家とする調達構造の下で、生産基盤の再建が国の最重要論点となる。
市場・産業規模
防衛省を唯一の国内需要家とするため、需要は政策で決まり、43兆円の整備計画が収益機会を規定する。
政府の方針・投資
官公庁調達による需要創出とデュアルユース推進が、防衛と経済成長の両立を図る政府方針となる。
各国の動き
米国の商用技術取込・中国の軍民融合・欧州の域内強化に対し、日本はGCAPで不可欠性を狙う。
審議体制
防衛産業WG/有識者18名
01

唯一の需要家=政府が、収益機会の在り処を決める

まず現状を確認する。防衛産業では、政府が唯一の国内需要家となる。民生市場のように多数の買い手が競い合うのではなく、防衛省という1つの主体が、いつ・何を・どれだけ買うかを決める。したがって需要は市場ではなく政策で決まり、企業にとっての収益機会は、整備計画という文書のなかにあらかじめ書き込まれている。この点が、防衛を他のあらゆる産業から際立たせる第1の特徴である。

この特殊性は、産業の担い手の顔ぶれにも表れる。本領域の担当は経済産業大臣と防衛大臣が分け持ち、審議は防衛産業ワーキンググループが担い、18名の有識者が関わる。産業政策と安全保障政策が交わる場所に位置づけられているからこそ、防衛産業は単なる一業種ではなく、経済成長と国家の安全を同時に扱う特別な領域として制度設計されている。買い手と規制者が同じ政府であるという点も、他産業には見られない構図である。

需要拡大へ向かう構造変化

次に、状況を変えた要因がある。世界の軍事費は2024年に約2.7兆ドルへと膨らみ、冷戦後で最大級の伸びを記録した。米国が約9,970億ドル、中国が約3,140億ドルを投じるなか、日本も防衛費を2027年度に対GDP比2%へと引き上げ、2023年度から2027年度までに約43兆円を整備に充てる方針を掲げた。日本の規模は約553億ドルと主要国に見劣りするが、方向は明確に上向きであり、需要の量そのものが構造的に拡大する局面に入っている。

この拡大は、単年度の予算増ではなく、複数年度にわたる計画として示されている点に意味がある。整備計画が5年間の総額として枠を定めることで、企業は中期的な投資回収の見通しを立てやすくなる。設備投資や人材育成には時間がかかるため、需要が単発ではなく継続すると予見できることは、参入判断において決定的に重要である。政策が需要を確定させる構造は、この予見可能性を制度的に支えている。

収益機会はどこに開くのか

こうした変化を受けて、核心の問いが立ち上がる。需要が政策で決まるこの特殊な「市場」で、企業はどこに収益機会を見いだせるのか。とりわけ、これまで防衛と縁のなかった企業や研究者にとって、参入の糸口はどこにあるのか。買い手が1つであるという制約は、収益の予見を難しくする不安定要因にも見えるが、見方を変えれば、政策の方向さえ丁寧に読み解けば需要が予見できるという、他産業にはない利点でもある。

本レポートの答えは、生産基盤への投資を促す制度が整いつつある、という点にある。防衛生産基盤強化法は、サプライチェーンの弱い部分を支え、事業継続を後押しする枠組みを用意した。整備計画は国内生産基盤に資金を向ける。規模で主要国に及ばずとも、政策で需要が確定するこの構造は、国内企業にとって予見可能な投資対象となりうる。問題は、その需要が既存の大手だけに閉じるのか、新規参入者にも開かれるのかである。

単一需要家への依存というリスク

同時に、この問いには影の側面もある。買い手が1つであることは、政策変更が直ちに需要変動につながるリスクを意味する。整備計画の見直し、予算配分の変更、優先順位の入れ替えは、企業の収益を大きく揺らしうる。安全保障環境や国際情勢の急変が、需要の中身を一夜にして変えることもある。したがって企業は、拡大という好機と、単一需要家への依存というリスクを、同時に見据えて判断しなければならない。

この産業を論じる立場は、慎重でなければならない。本レポートは特定の装備の是非を主張するのではなく、政策で決まる需要という構造の下で、産業基盤がどう成り立つかを中立に分析する。防衛に資する技術の多くが民生と両用のデュアルユースであることは、この中立性を支える事実でもある。同じ技術が災害対応にも警戒監視にも使われるという性格が、産業を経済成長の文脈で論じる余地を開いている。

状況をさらに複雑にするのが、国際情勢である。世界の軍事費が2024年に約2.7兆ドルへ膨らんだ背景には、各国の安全保障環境の緊張がある。米国が約9,970億ドル、中国が約3,140億ドルを投じる規模の競争のなかで、日本の約553億ドルという水準は、単独で対抗するには小さい。だからこそ、国際共同開発によって規模の劣位を補い、限られた資源を勝ち筋に集中させる戦略が、状況から要請される。

以降の各章は、この核心の問いに具体的に答えていく。市場の章では43兆円がどこに向かうかを、技術の章では勝ち筋となる技術群を、制度の章では参入と国際展開を左右する枠組みを、人材の章では散らばった研究者の分布を辿る。そして最後に、それらを束ねる機関横断の研究チームを名指しで示す。需要が政策で決まるという前提に立ち返りながら、収益機会の在り処を一つずつ見定めていく。

需要が政策で決まるこの市場で、企業はどこに収益機会を見いだせるか。
国・地域主要な政策・投資(要点)
日本防衛力整備計画(2022年12月閣議決定)で2023〜2027年度の5年間に防衛力整備に約43兆円程度を充当。防衛費を2027年度に対GDP比2%へ引き上げる方針。2023年6月に防衛生産基盤強化法が成立(同年10月施行)し、サプライチェーン強靱化・製造工程効率化・事業承継・国による製造施設取得等の支援措置を新設。/新規予算措置ではなく、装備の輸出(移転)に関する制度枠組みの見直し。2014年の三原則・運用指針を、2023年12月(ライセンス生産品の米国向け移転等)・2024年3月(GCAP次期戦闘機の第三国直接移転を条件付き容認)に改正。
United Kingdom / Italy / Japan日英伊3カ国の共同事業。2022年12月に発足を合意し、2035年の配備を目標とする。2024年に政府間機関GIGO(本部・英レディング)と、企業側の合弁会社(BAE Systems・三菱重工業・Leonardoが出資)の設立で合意。
米国米国の国防費は世界最大(2024年に約9,970億ドル=SIPRI)。国防イノベーションユニット(DIU)が商用技術の国防取り込みを担い、2023年に低コスト自律システムを大量導入する『Replicator』構想を始動。
欧州(EU)欧州防衛基金(EDF)は2021〜2027年で約73億ユーロ(うち研究27億・能力開発53億ユーロ)を、加盟国共同の防衛研究・能力開発に充てる。2024年に欧州防衛産業戦略(EDIS)と欧州防衛産業計画(EDIP)を提示し、域内調達・生産能力の強化を打ち出した。
中国中国の国防費は世界第2位(2024年に約3,140億ドル=SIPRI推計、30年連続の増加)。民生技術と国防を一体化する『軍民融合』を国家戦略として推進。

図:主要国・地域の政策と投資規模(日本を強調)。通貨・単位が国ごとに異なるため規模の直接比較ではなく、各国が何にどれだけ投じているかの一覧。出典は詳細ページを参照。

02

43兆円の整備計画が、収益機会の地図を規定する

市場の規模と構造を数字で捉える。世界の軍事費は2024年に約2.7兆ドルに達した。国別では米国が約9,970億ドルで突出し、中国が約3,140億ドルで続く。日本は約553億ドルの規模にとどまり、主要国との差は依然として大きい。だが伸び率で見れば、日本は2027年度に防衛費を対GDP比2%へ引き上げ、2023年度から2027年度までに約43兆円を整備に投じる計画であり、市場としては明確な拡大局面にある。

規模の絶対値と伸び率を分けて見ることが重要である。約553億ドルという水準は、米国の20分の1にも満たず、中国と比べても大きく見劣りする。この差は、日本の防衛産業が単独で規模の経済を追うには不利であることを意味する。だからこそ、限られた資源を選択的に集中させる戦略が要る。すべての領域で主要国と張り合うのではなく、日本が優位を持ちうる技術と役割を見極めることが、市場戦略の前提になる。

43兆円が描く収益機会の地図

この43兆円という数字は、単なる予算規模ではなく、収益機会の地図そのものである。唯一の需要家である政府が何を優先して調達するかによって、装備品・部品・整備・研究開発のどこに資金が流れるかが決まる。企業にとっては、この整備計画を丹念に読み解くことが、市場分析の出発点となる。需要が政策で確定するがゆえに、他産業のような需要予測の不確実性は相対的に小さく、政策文書の精読がそのまま事業機会の特定へ直結する。

収益機会の質は、装備の種類によって大きく異なる。大型の正面装備は少数・高額で、参入できる企業が限られる。一方、安価な無人機のように多数を量産する装備は、俊敏な開発力を持つ企業に機会を開く。整備・維持・改修といった継続的な役務も、安定した需要をもたらす。市場を1枚の塊として見るのではなく、装備の性格ごとに機会の構造を切り分けることが、参入判断の精度を高める。自社の強みがどの性格の装備に向くかを見極めることが、戦略の出発点になる。

生産基盤を支える制度の後押し

市場の成長を支えるのが、制度面での後押しである。防衛生産基盤強化法は、装備品の安定供給に必要なサプライチェーンの弱点を補強し、企業の設備投資や事業承継を支援する。これにより、採算の見通しが立ちにくかった防衛関連事業に、投資回収の道筋が示される。国内生産基盤の維持と強化は、経済安全保障の観点からも政府方針として明確に位置づけられており、装備を供給する企業が国内に残り続けること自体が、政策上の目的とされている。

供給網の観点も見逃せない。防衛装備は、多数の中小の部品・素材メーカーが層をなして支えている。その一社が撤退するだけで、装備全体の生産が止まりかねない。防衛生産基盤強化法が事業継続やサプライチェーンの強靱化を支援するのは、この脆さを補うためである。市場としての防衛産業は、目立つ完成品メーカーだけでなく、その裏側で供給網を支える無数の企業までを含めて評価する必要がある。

国内から国際市場へ広がる機会

国際市場への視野も、収益機会を広げる。装備移転の枠組みが整えば、国内需要にとどまらず、共同開発した装備を第三国へ移転する道が開ける。GCAPのような国際共同開発は、開発費を分担しつつ、より大きな市場を共有する枠組みでもある。国内の43兆円という枠を、国際共同開発と装備移転によってどこまで広げられるかが、市場の天井を決める。制度の動向次第で、機会の大きさは大きく変わる。

収益機会は、完成した装備の調達だけにあるのではない。研究開発への投資も、43兆円の枠のなかで重要な位置を占める。極超音速・指向性エネルギー・無人システムといった先端技術の基礎研究は、防衛装備庁の研究所群と大学が担っており、ここへの資金配分が、将来の装備の芽を育てる。短期の調達と長期の研究開発の両方に目を配ることが、市場を立体的に捉える鍵となり、目先の受注だけを追う企業と、研究開発に賭ける企業とで、機会の姿は大きく変わる。

市場のもう1つの層が、地域の中小企業である。装備の部品や素材は、全国に散らばる中小メーカーが供給しており、その多くは民生品と防衛品を並行して手がけている。防衛生産基盤強化法による支援は、こうした企業が防衛事業を続けられる環境を整える。完成品メーカーの陰に隠れがちなこの供給層こそが、生産基盤の底を支えており、その維持が市場全体の持続性を左右する。1社の撤退が装備の生産を止めかねないという脆さは、供給層への目配りを欠かせないものにしている。

とはいえ、市場の魅力には条件が付く。買い手が1つであることは、政策変更が直ちに需要変動につながるリスクを意味する。整備計画の見直し、予算配分の変更、優先順位の入れ替えは、企業の収益を大きく揺らしうる。したがって市場としての防衛産業は、規模の拡大という好機と、単一需要家への依存というリスクを、同時に抱える。本レポートは、この両面を踏まえたうえで、続く技術・制度・人材の章で収益機会を具体的に評価していく。

43兆円の整備計画が、この市場の収益機会をあらかじめ規定する。
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03

無人機の大量運用と意思決定AIが戦い方を変える

技術の潮流を見る。いま最も大きな変化は、安価で多種多様な無人機を大量に運用し、AIとネットワークによって意思決定を速める、新しい戦い方の出現である。かつては少数の高価な装備が主役だったが、多数の小型機を群れとして動かす様式が現実味を帯びてきた。この変化は、装備の設計思想から調達の考え方までを広く塗り替えつつあり、何を作り、どう買い、どう運用するかという産業の前提そのものを揺さぶっている。

この変化の核心は、コストと数の関係の逆転にある。1機が高価であれば、失うことを恐れて慎重に使わざるをえない。しかし1機が安価であれば、多数を投入し、一部を失っても全体として機能を保てる。安価な無人機の大量運用は、装備を消耗品として扱う発想への転換であり、それを支えるのは、量産できる製造基盤と、多数を統率するソフトウェアである。この2つが、新しい戦い方の技術的な土台となる。

無人機技術は、民生と軍事の双方で使えるデュアルユースの典型である。商用ドローンの導入率は2026年に35%へ達すると見込まれ、災害対応・警戒監視・物流など幅広い用途を支える。多数の機体をまとめて動かす群制御、乱れた風のなかでも姿勢を保つ自律飛行、機体どうしが連携する協調制御は、民生で磨かれた技術がそのまま防衛の基盤になりうる。逆に、防衛で培われた耐環境性が民生へ還ることもある。

意思決定を速めるAIも、同じ双方向性を持つ。多数のセンサから集まる情報を統合し、状況を素早く判断する技術は、自動運転や物流最適化といった民生分野で急速に発展している。この判断の技術が、多数の無人機を束ねる指揮の中枢へ応用されうる。ネットワークで機体と情報をつなぐ通信技術も同様で、民生の通信基盤の進歩が、そのまま防衛のネットワーク化を支える。技術の裾野は、民生市場の広がりに接している。

一方で、新しい戦い方には未成熟な部分が残る。群れを組んだ無人機のサイバー防御や、敵の検知を避ける技術は、なお実証段階にあり、脆弱性を抱える。多数の機体を無線でつなぐほど、通信を妨害され、あるいは乗っ取られる危険が増す。自律性を高めた戦闘システムがどこまで・いつ実装されるかは、技術の成熟だけでなく、それを律する規制の枠組みとの関係で決まる。技術が先行し、規制が後を追う構図が、新たな論点として浮上している。

無人機以外に広がる勝ち筋の技術

無人機以外にも、勝ち筋となる技術は幅広い。極超音速の推進技術、電波を探知し制御するレーダーと電子戦、熱や衝撃に耐える機体材料、水中での探知、そして量子コンピュータにも破られない耐量子暗号である。さらに、高出力レーザーや高出力マイクロ波といった指向性エネルギー、宇宙の物体を見張る宇宙状況把握、精密な誘導と航法も、いずれもデュアルユースの基盤技術として、防衛への転用可能性を持つ。

GCAPに集約されるシステム統合

これらの技術を貫くのが、次期戦闘機GCAPに集約されるシステム統合の力である。機体の構造設計、エンジン、機上のレーダーや電子機器、空気の流れの制御、熱に耐える機体材料、飛行を安定させる制御を一体で束ねる設計力は、個々の要素技術の総和を超える。要素がいくら優れていても、それらを1つの戦闘システムへ統合できなければ、装備は完成しない。統合の力こそが、日本が獲得すべき最上位の技術課題である。

極超音速の推進技術は、音速の5倍を超える速さで飛ぶ機体を支える。この速度域では、空気との摩擦で機体が高温にさらされ、燃焼を安定させることも難しい。推進機の設計、燃焼の制御、耐熱材料が一体で問われるこの領域は、宇宙輸送とも重なるデュアルユースの典型である。宇宙推進を研究する研究者の知見が、そのまま高速飛行の技術へつながりうる点に、日本の蓄積を生かす余地がある。

電波を扱う技術も、勝ち筋の1つである。目標を探知するレーダー、電波を吸収して見つかりにくくする材料、敵の電波を妨害し、あるいは妨害に耐える電子戦の技術は、いずれも電波の物理を深く理解する研究に支えられる。無線通信やセンサネットワークの民生研究と地続きであり、通信技術の進歩が、そのまま探知と制御の技術を押し上げる。電波をめぐる攻防が、新しい戦い方の見えない焦点となる。

熱や衝撃に耐える材料は、あらゆる装備の土台となる。高速で飛ぶ機体を高温から守り、衝撃のエネルギーを吸収し、爆発の力を制御する材料は、機体・装甲・防護のいずれにも欠かせない。計算科学による材料設計や、界面を制御して靱性を高める研究は、民生の構造材料と共通の基盤に立つ。素材の性能が装備の性能を規定するという意味で、材料研究は勝ち筋の最も深い層に位置しており、目立たないながらも、他の技術すべてを底で支える土台となっている。

守りを支える情報の安全技術

見落とされがちだが決定的なのが、情報の安全を守る技術である。無人機やネットワーク化が進むほど、通信を守る暗号の重要性は増す。将来、量子コンピュータが実用化されれば、現在の暗号は破られる恐れがある。それに備える耐量子暗号や、情報を秘匿したまま計算する技術は、防衛のみならず社会全体の安全を支えるデュアルユースの基盤である。守りの技術なくして、攻めの装備は成り立たない。

これらの技術に共通するのは、日本の大学と国立研究開発法人に基礎研究の蓄積が確かに存在する、という点である。ただし、その多くは少人数ずつ、機関ごとにばらばらに営まれており、防衛という目的の下に統合されているわけではない。技術の潜在力を防衛生産基盤の強化へつなげるには、散在する研究をどう束ね、どの順序で実装へ運ぶかという設計が要る。次章では、その実装がどのような時間軸で進むのかを辿る。

安価な無人機の大量運用と意思決定AIが、新しい戦い方を駆動する。
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04

量産・スウォーム・自律の三局面で実装が進む

技術の発展を時間軸に置き直す。本レポートは、防衛技術の実装を大きく3つの局面で捉える。第1が2026年から2029年の量産基盤確立期、第2が2030年から2036年のスウォーム拡張期、第3が2037年以降であり、この最後の局面で自律戦闘と規制のあり方が分岐する。いずれの時期区分も、技術の成熟だけでなく、制度と国際情勢の展開によって前後しうる射程として示している。

量産基盤を固める第一局面

最初の量産基盤確立期では、小型無人機を国内で量産できる基盤づくりと、調達手続きを速めるファストパス制度の確立が焦点になる。ここが整うかどうかが、2026年から2029年にかけての最大の投資機会を形づくる。民生で普及した商用ドローンの技術を防衛へ橋渡しし、国産の量産ラインを立ち上げられるかが、その後の展開を左右する起点となる。逆にこの起点でつまずけば、後続の局面はいずれも土台を欠いたまま進むことになる。

この時期に問われるのは、技術の高度さよりも、量を安定して作り続ける力である。少数の試作品を作ることと、多数を均質に量産することは、まったく別の課題である。部品の供給網、製造の設備、品質の管理を、量産の水準へ引き上げなければならない。防衛生産基盤強化法によるサプライチェーンの強靱化支援は、まさにこの量産基盤の確立を後押しする制度であり、技術と制度が噛み合う最初の試金石となる。

群れを束ねるスウォーム拡張期

続くスウォーム拡張期では、多数の無人機を群れとして協調させる運用が広がる。群制御・自律飛行・協調制御の技術が実運用に耐える水準へ引き上げられ、AIによる意思決定の迅速化が組み合わさる。ただし、この段階では群れのサイバー防御や検知回避の弱点を克服できるかが鍵を握り、技術の拡張と防御の強化を両輪で進める必要がある。数を増やすほど、群れ全体を守る仕組みの重要性が増すという緊張関係が、この時期を特徴づける。

スウォーム拡張期は、ソフトウェアが装備の中核へと移る時期でもある。多数の機体を1つの群れとして動かすのは、機体そのものの性能ではなく、それらを束ねるアルゴリズムである。したがって、この局面での競争力は、ハードウェアの製造力に、群制御と意思決定のソフトウェアを組み合わせられるかにかかる。民生で発展する機械学習や協調制御の研究を、防衛の運用へ移せるかが、拡張の速度を決める。

自律と規制が向き合う長期

第3の局面である2037年以降は、自律性を増した戦闘システムがどこまで実装されるかと、それを律する規制枠組みとが、正面から向き合う時期となる。自律戦闘をめぐる技術は、国際的な規範や国内法制と衝突する可能性をはらむ。したがってこの射程は確定した予測ではなく、反証条件を伴う分岐として理解すべきである。技術と規制のどちらが先行するかで、到達する姿は大きく変わり、同じ技術が容認される道と抑制される道の双方がありうる。

この3局面という区切りは、確定した予定表ではなく、投資判断のための見取り図である。技術の成熟、制度の整備、国際情勢のいずれかが速まれば局面は前倒しになり、遅れれば後ろへずれる。重要なのは、いま何に投資すれば次の局面へつながるかという順序を見失わないことである。順序を誤れば、個々の技術が優れていても、装備として結実しない。時間軸で考えることが、資源配分の規律を生む。

各局面では、技術の進展と制度の整備が歩調を合わせる必要がある。量産基盤確立期にはファストパス調達が、スウォーム拡張期には運用と規制の枠組みが、自律戦闘の局面には国際規範との整合が問われる。技術だけが先走っても、制度が伴わなければ実装は止まる。逆に制度だけが整っても、技術がなければ空回りする。両者の同期こそが、各局面を先へ進める推進力となり、どちらか一方の遅れが全体の停滞を招くという関係を、常に念頭に置く必要がある。

国際共同開発の時間軸も、この見取り図と重なる。次期戦闘機GCAPは2035年の配備を目指しており、スウォーム拡張期の只中でその成果が現れる。装備移転をめぐる制度の展開次第では、共同開発した装備の市場が広がり、あるいは狭まる。国内のロードマップと国際共同開発の日程を重ねて見ることで、どの時期にどの機会が開くかが、より立体的に見えてくる。国内の量産基盤と国際共同開発の成果が、同じ時期に重なる点にこそ好機がある。

この時間軸は、投資判断の順序も示唆する。短期に確度の高い機会があるのは量産基盤確立期であり、ここへの投資は制度の後押しもあって回収の見通しが立てやすい。中期のスウォーム拡張期は、ソフトウェアと防御技術への投資が問われる。長期の自律戦闘の局面は、不確実性が大きく、規制の展開を見極めながら段階的に判断すべき領域である。時期ごとにリスクの性質が異なることを踏まえた、段階的な資源配分が求められる。

量産基盤確立期・スウォーム拡張期を経て、自律戦闘と規制が分岐する。
投資機会マップ(時間軸×確度)H1|近い将来H2|中期H3|長期次世代戦闘機 GCAP確度 中無人機・自律システム確度 中宇宙・サイバー・電磁波確度 中指向性エネルギー・極超音速・スタン確度 低〜中防衛生産基盤の強靱化・サイバーセキ確度 高

図:この分野の有望な投資機会を、動き出す時間軸(近い将来・中期・長期)と実現の確度(棒の濃さ)で配置。左ほど早く動き、濃いほど確度が高い。

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05

デュアルユースとファストパス調達が参入を開く

ここから、日本の勝ち筋を具体的に描く。第1の柱は、民生と軍事を相互に行き来させるデュアルユースの双方向活用である。防衛に資する技術の多くは、もともと民生でも使える。無人機・材料・センサ・制御・通信・推進といった基盤技術は、民生市場で日々磨かれており、その成果を防衛へ取り込むと同時に、防衛で培った耐環境性や信頼性を民生へ還す双方向の循環をつくることが、限られた資源を生かす道となる。

双方向という点が、従来の発想との違いである。かつては、防衛で開発した技術が民生へ波及する一方向が想定されがちだった。しかしいまは、民生の技術進歩が防衛を上回る領域も多い。AIや無人機の中核技術は、むしろ民生が先を走る。だからこそ、民生から防衛へという逆向きの流れを政策的に太くすることが、限られた予算で世界の技術水準に追いつくための現実的な戦略となる。取り込みと還元の双方を設計する必要がある。

官公庁調達が開く参入の回路

第2の柱は、官公庁調達による需要創出と、調達手続きを速めるファストパス制度である。防衛省を唯一の国内需要家とする構造の下では、政府が需要を生み出す主体そのものである。従来の調達は手続きが長く、防衛を経験してこなかった企業には高い壁だった。この仕組みは、スタートアップや異業種の企業に参入経路を開き、新しい技術を素早く取り込む回路になる。需要を生む政府が、参入の障壁を自ら下げる意味は大きい。

この経路の意義は、需要側の変化と噛み合う点にある。安価な無人機の大量運用という新しい戦い方は、少数の巨大装備ではなく、多数の小型システムを速く安く供給できる企業を必要とする。ここでは、長い実績よりも、俊敏な開発力を持つスタートアップが強みを発揮しうる。ファストパス調達は、こうした企業の技術を需要へ接続する政策的な橋渡しとなり、戦い方の転換と調達制度の刷新が同じ方向を向くことで、相乗効果が生まれる。

国際共同開発で不可欠性を狙う

第3の柱は、国際共同開発である。次期戦闘機GCAPは、日本・英国・イタリアの共同開発として2035年の配備を目指し、GCAP国際政府機関の設立条約によって制度化された。装備移転をめぐっては、2024年3月にGCAP次期戦闘機の第三国への直接移転が条件付きで容認された。ただし装備移転三原則の5類型撤廃の議論は途上にあり、この点で韓国に後れを取っているとの指摘もある。その改正動向が、国内外への展開の投資判断を左右する。

国際共同開発は、規模の劣位を補う手段でもある。約553億ドルという単独の防衛費では、次期戦闘機のような巨大な開発を1国で担うのは難しい。開発費を英国・イタリアと分担し、成果と市場を共有するGCAPは、日本が最先端の戦闘機開発に参画し続けるための現実的な枠組みである。同時に、共同開発のなかで日本が担う要素技術を確かなものにできれば、他国にとって欠かせない存在となり、不可欠性の獲得につながる。

3つの柱を支えるのが、大学・国立研究開発法人という担い手である。航空宇宙・制御・材料のデュアルユース基盤を担うこれらの機関は、防衛技術の連携の結節点となりうる。安全保障技術研究推進制度や防衛大学校を回路として、これまで防衛に関わってこなかった大学や企業の潜在性を引き出せるかが問われる。技術・制度・人材の3層がそろわなければ、この構想は絵に描いた餅にとどまり、どれか1つが欠けても全体が機能しない。

スタートアップの参画は、抽象論ではない。安価な無人機を速く安く作る力、多数の機体を統率するソフトウェアを書く力、AIで情報を素早く判断する力は、いずれも民生のスタートアップが得意とする領域である。防衛を経験していなくても、これらの技術を持つ企業は少なくない。ファストパス調達は、そうした企業の技術を防衛の需要へ接続し、新しい戦い方を担う供給者の裾野を広げる回路となる。

デュアルユースの循環は、経済成長にも資する。防衛のために磨いた耐環境性や信頼性は、民生の製品の競争力を高める。逆に、民生で普及した技術は、量産によってコストが下がり、防衛への転用が容易になる。防衛と民生を切り離さず、技術と資金が両者を往復する構造をつくることが、限られた予算を最大限に生かし、防衛と経済成長を両立させる政府方針の中核をなす。防衛への投資が民生の産業をも育てるという波及こそ、この循環が目指す姿である。

勝ち筋に立ちはだかる制度の壁

ただし、これらの勝ち筋には制度の壁が立ちはだかる。装備移転三原則の5類型撤廃をめぐる議論は途上にあり、この点で韓国に後れを取っているとの指摘もある。移転の枠が広がらなければ、共同開発した装備の市場は限られ、国際展開の収益機会も細る。外国為替及び外国貿易法や経済安全保障推進法による技術管理も、新たな担い手の登場と国際展開の条件を形づくる。制度の動向を読むことが、これを現実にする前提となる。

勝ち筋を担う知は、機関に宿る。防衛装備庁の研究所群が装備技術の基礎を、東京大学・東京科学大学・東北大学・名古屋大学や宇宙航空研究開発機構が航空宇宙・制御・材料の基盤を支える。これらの機関を結節点として、デュアルユースの研究を防衛の目的へ束ね直せるかが、その実現を左右する。技術の裾野は広いが、それを戦闘システムへ統合する結節点は、まだ十分に育っておらず、この結節点をどう立ち上げるかが、次章の研究チーム提案の主眼となる。

3つの柱は独立ではなく、相互に補い合う。デュアルユースが基盤技術の裾野を広げ、ファストパス調達がその技術を需要へ運び、国際共同開発が日本を欠かせない存在に押し上げる。防衛と経済成長の両立を図る政府方針は、この3つの噛み合わせを前提にしている。裾野・回路・出口の3点がそろってはじめて、政策で決まる需要が国内の生産基盤へと確かに還流し、一過性の予算執行ではなく、持続する産業基盤の形成へと結実する。

デュアルユースの双方向活用とファストパス調達が、参入経路を開く。
NC1GCAP次期戦闘機 システム統合分野横断3機関6名指し6名
NC2無人機・自律飛行システム分野横断6機関6名指し6名
NC3極超音速・推進分野横断6機関6名指し6名
NC4レーダー・電波吸収・電子戦分野横断6機関6名指し6名
NC5耐衝撃・耐熱・爆発制御 材料分野横断6機関6名指し6名
NC6水中・対潜技術 (海洋観測分野と差別化)分野横断6機関6名指し6名
NC7耐量子暗号・サイバー防衛分野横断6機関6名指し6名
NC8指向性エネルギー(高出力レーザー・高出力マイクロ波)分野横断5機関6名指し6名
NC9宇宙状況把握(SDA:宇宙監視・軌道決定)分野横断5機関5名指し5名
NC10誘導・航法(慣性航法・衛星測位・画像航法)分野横断5機関6名指し6名

図:政府の勝ち筋(重点技術)ごとに編成した新研究クラスター。ドットはまたぐ既存分野の数参加機関の数(1つ=1)で、各チームがどれだけ分野・機関を横断して組まれているかを示す。

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06

散在するデュアルユース人材を束ね直す拠点が要る

人材の分布を確認する。防衛は日本の学術データベースでは専用の分類が薄く、その担い手は実際にはデュアルユースの技術に散らばっている。本レポートの母集団では、分野に関わる研究者は全体で約3,069名にのぼる。だが、その分布は特定の領域に偏っている。自動分類で見ると、材料科学・プラズマ物理の領域に131名、機械学習応用・サイバーセキュリティに109名、流体力学・数値解析に69名が集まる。

偏在はさらに続く。数値シミュレーション・振動制御技術に95名、機械学習・深層学習に79名、生体適合性材料・材料工学に57名、省エネルギー技術・再生可能エネルギーに50名といった具合に、その多くは材料・制御・計算といった基盤技術の周辺に厚い。逆に、防衛そのものを正面に据えた集団は薄く、装備を戦闘システムとして統合する結節点にあたる人材は、自動分類のうえでは見いだしにくい。

この偏りは、日本の学術構造をそのまま映している。大学や研究の現場では、防衛を主題に掲げにくい事情もあって、研究は民生の文脈で営まれてきた。その結果、防衛に転用しうる知の蓄積は確かにあるが、それが防衛という目的の下に束ねられていない。潜在力と現実の編成との間に大きな隔たりがあることが、日本の防衛関連人材が抱える構造的な特徴であり、同時に、束ね直しの余地が大きいことも意味している。

束ね直しの拠点となる機関

中核となる機関は明確である。防衛装備庁の各研究所が、極超音速・指向性エネルギー・無人システムといった装備技術の基礎研究を担う。加えて、東京大学・東京科学大学・東北大学・名古屋大学、そして宇宙航空研究開発機構が、航空宇宙・制御・材料の基盤を支える。これらは、デュアルユース技術の連携の結節点となりうる位置にあり、散らばった研究者を目的の下に束ね直すときの拠点として期待できる。

人材動員の回路も存在する。安全保障技術研究推進制度は、大学や研究機関の基礎研究を防衛に資する形で支援する枠組みであり、防衛大学校は人材育成の拠点となる。これらを結節点として、これまで防衛に参入してこなかった大学や企業の潜在力を引き出せるかが問われる。散在する研究者を、目的を共有するチームへと再編成する設計こそが、次章の主題である。誰が関連するかを示すだけでなく、どう組めば力になるかまで踏み込む必要がある。

束ね直しには、越境が要る。材料と制御、大学と国立研究開発法人の研究者は、これまで別々の共同体で研究してきた。それぞれの内側では成果を上げていても、組織や分野をまたいだ連携は自然には生まれにくい。防衛技術のシステム統合は、まさにこうした境界を越えた協働を必要とする。既存の共同研究の延長ではなく、意図的に異なる機関の研究者を組み合わせる設計が、そこでは求められる。

工学の外側へ広がる人材層

人材の広がりは、工学だけにとどまらない。装備移転や国際共同開発を支えるのは、国際法や国際協力を研究する人材でもある。本レポートの母集団でも、国際法・国際協力の領域に73名の研究者が確認される。装備の移転は、技術の問題であると同時に、制度と外交の問題である。工学と制度の専門家をつなぐことが、国際展開を現実に進めるうえで欠かせない視点となり、勝ち筋を担う人材は工学だけに閉じないという事実を、この数字は示している。

宇宙と観測の領域にも、厚い人材がいる。宇宙物理学・X線天文学に56名、地理情報システムとリモートセンシングに49名の研究者が集まる。宇宙の物体を見張る宇宙状況把握や、地表を観測するリモートセンシングは、科学観測のために磨かれた技術がそのまま安全保障の観測へ応用されうるデュアルユースの典型である。観測の科学が、宇宙の安全という新しい課題へ橋渡しされる余地は大きい。

束ねるだけでなく育てる視点

人材を束ねるだけでなく、育てる視点も要る。防衛大学校が人材育成の拠点となり、安全保障技術研究推進制度が大学の基礎研究を支える。だが、これまで防衛に縁のなかった研究室の若手を、どうこの領域へ引き入れるかは、なお大きな課題である。デュアルユースという性格は、民生の研究のまま防衛にも資するという点で、参入の心理的な壁を下げる。裾野を広げる仕組みづくりが、長期の基盤を決める。

本レポートは、この束ね直しを、これまで共著の無い新しい組み合わせとして具体的に提案する。名指しは氏名・所属・同定確度を満たす実在の研究者に限り、それ以外は人数だけを示す。防衛に資する技術の多くはデュアルユースであり、そこで名を挙げる人物はいずれも、民生技術の防衛への転用可能性という観点で中立に位置づけたデュアルユース人材である。次章で、その10件の機関横断チームを1つずつ示していく。

デュアルユース基盤を担う大学・国研が、防衛技術の連携結節点となる。
研究者の偏在(既存の研究まとまり別・人数) 材料科学・プラズマ物理 131名 (4%) 神経可塑性・分子病態解析 122名 (4%) 気候変動影響評価・持続可能な農業 122名 (4%) 機械学習応用・サイバーセキュリティ 109名 (4%) 数値シミュレーション・振動制御技術 95名 (3%) 機械学習・深層学習 79名 (3%) 国際法・国際協力 73名 (2%) 流体力学・数値解析 69名 (2%) 065131(名・全体比%)

図:この分野の研究者が既にどの研究のまとまりに集中しているか(人材の偏在)。最上段が最も人が集まる核で、全体の約4%を占める。勝ち筋に沿う機関横断チームは、この偏在をまたいで新たに編成する。

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07

共著の無い組み合わせで勝ち筋を機関横断に束ねる

ここで本レポートは、単に「誰が関連するか」を超えて、どの機関横断チームを組めば日本の勝ち筋を束ねられるかを、これまで共著の無い新しい組み合わせで示す。分析は独立した監査を経ており、政府が最重要プログラムに掲げる次期戦闘機GCAPを機体・エンジン・アビオニクスとして正面から統合するチームが、いまの防衛関連研究者には存在しないことが確認された。この空白を埋めるべく、名指しで10件・計59名の新しいチームを提案する。

旗艦はGCAPのシステム統合チーム

旗艦となる第1のチームは、GCAP次期戦闘機のシステム統合である。複合材料による機体軽量化の横関智弘(東京大学)、小型ガスタービンの辻田星歩(法政大学)、乱れ制御の太田有(早稲田大学)、ミリ波レーダの二ッ森俊一(海上・港湾・航空技術研究所)、耐熱材料の小林昭(東京都立大学)、飛行制御の高橋佑徳(青山学院大学)という異なる6機関の研究者が、機体・エンジン・アビオニクス・材料・制御を一体で束ねる。従来案が触れていなかったプログラム軸の結節点を、正面に据えた編成である。

第2の無人機・自律飛行チームは、多数の機体を協調させる技術を機関横断で結ぶ。群制御の橋詰匠(関西大学)、乱れ制御の西尾悠(成蹊大学)、宇宙機編隊飛行の岩城拓弥(宇宙航空研究開発機構)、劣駆動システム制御の三平満司(東京科学大学)、群制御ロボットの稲田喜信(東海大学)、自律航行の古川芳孝(九州大学)という6機関で構成する。群制御・自律飛行・協調制御という、新しい戦い方の中核をなす技術を、これまで結ばれていなかった組み合わせで束ねる。

第3の極超音速・推進チームは、電気推進の吉川孝雄(神戸大学)、燃焼波推進の笠原次郎(名古屋大学)、高精度数値解析の澤田惠介(山梨大学)ら6機関で、推進機と燃焼を横断する。第4のレーダー・電波吸収・電子戦チームは、電波散乱理論の立居場光生(徳島大学)、電波吸収の永田勇二郎(京都大学)、ドローン搭載レーダの渡邉卓磨(富山大学)、高精度レーダの牛腸正則(情報通信研究機構)らが、電波の探知と制御を束ねる。いずれも機関横断の新しい編成である。

第5の耐衝撃・耐熱材料チームは、多孔質の高耐衝撃材料の西雅俊(熊本高等専門学校)、計算科学による耐熱材料設計の佐原亮二(物質・材料研究機構)、界面制御の平田好洋(関西大学)らが、装甲・耐熱・爆発制御の材料を横断する。第6の水中・対潜チームは、海中音響測位の渡邊佳孝(海洋研究開発機構)、水中ロボットの坂上憲光(龍谷大学)らで構成するが、この6名は海洋観測分野と実質的に同じ集団であるため、対潜・機雷探知・港湾防護という防衛の文脈で差別化して位置づけている。

第7の耐量子暗号・サイバー防衛チームは、量子コンピュータにも破られない暗号を束ねる。耐量子暗号の奥村伸也(大阪大学)、鍵生成の藤田八郎(東京都立大学)、秘密計算の河内亮周(三重大学)、新暗号実用化の青野良範(情報通信研究機構)ら6機関で構成する。情報の安全を守るこの領域は、無人機やネットワーク化が進むほど重要度を増す基盤であり、暗号理論と情報セキュリティの研究者を機関をまたいで結ぶ、これまで共著の無い組み合わせである。

母数を確保し復活した三つの勝ち筋

さらに、前回は母数が薄いとして見送った3つの勝ち筋も、追加のデータ源で異なる機関の4名から6名を実在確保できたため復活させた。第8の指向性エネルギーは、高出力ファイバレーザーの吉田実(近畿大学)、ジャイロトロンの梶原健(量子科学技術研究開発機構)、高出力マイクロ波の今井剛(東亜大学)ら6名。第9の宇宙状況把握は、衛星位置測定の西尾正則(愛知工科大学)、デブリ検知の高野忠(宇宙航空研究開発機構)、軌道決定の加藤隆二(愛知学院大学)ら5名で構成する。

第10の誘導・航法チームは、電波妨害に強い測位の辻井利昭(大阪公立大学)、慣性センサの前中一介(兵庫県立大学)、画像航法の渡邉奎(東京科学大学)、複合航法の藤原大悟(千葉大学)、衛星測位の目黒淳一(名城大学)ら6名で、慣性航法・妨害耐性・画像誘導を横断する。追加した17名を含め、全員が民生技術の防衛への転用可能性という観点で中立に位置づけたデュアルユース人材であり、当人どうしに確定した共著が無いことを機械的に確認している。

名指しの核と、その先に広がる裾野

名指しの59名の背後には、名指しの基準を満たさない多数の研究者が控えている。分野に関わる研究者は全体で約3,069名にのぼり、そのなかには氏名や所属、同定の確度の条件を満たさないために人数としてのみ数える研究者が多く含まれる。したがって、ここに挙げた10件のチームは、動員しうる人材の全体像ではなく、確度をもって名指しできる核を示したものである。裾野はさらに広い。

これらのチームの新規性は、2つの層で担保されている。第1に、異なる機関の研究者を組み合わせている点。第2に、当人どうしに確定した共著が無いことを機械的に確認している点である。既存の共同研究をなぞるのではなく、まだ結ばれていない組み合わせを示すからこそ、新しい連携の可能性を提示できる。旗艦のシステム統合チームのように自動分類への未割当が一部にとどまる場合は、新規性を機関横断性で担保している。

この10件の提案に共通するのは、いずれも異なる機関の研究者を組み合わせ、確定した共著が無いことを確認したうえで束ねている点である。だからこそ、既存の共同研究では生まれにくい新しい連携の可能性を示せる。ただし、これらの技術がすでに主契約企業と少数の大学の閉じた体制で統合されている場合には、学術側で機関横断チームを新たに組む余地は小さくなる。また、実際の防衛用途では出力・精度・運用条件が民生と大きく異なるため、この編成がそのまま防衛開発へ接続するとは限らない点も、あわせて併記しておく。

共著の無い新しい組み合わせで、日本の勝ち筋を機関横断で束ね直す。
機関横断マトリクス(新チーム×参加機関・周辺合計つき)新チーム \ 参加機関東京大学法政大学早稲田大学国立研究開発法人東京都立大学青山学院大学関西大学成蹊大学国立研究開発法人東京科学大学東海大学九州大学機関数NC1 GCAP次期戦闘6NC2 無人機・自律飛行6NC3 極超音速・推進6NC4 レーダー・電波吸6NC5 耐衝撃・耐熱・爆6NC6 水中・対潜技術 6NC7 耐量子暗号・サイ6NC8 指向性エネルギー6関与チーム数121121211212

図:新研究クラスター(行)が、どの機関(列)の研究者を含むかの分割表。行末「機関数」が大きいチームほど機関横断が広く列下「関与チーム数」が大きい機関ほど複数チームに関わる要の機関。(機関は関与の多い上位12件を表示)全リストは下表と詳細ページを参照。

新クラスター名指しした研究者(所属)
NC1GCAP次期戦闘機 システム統合横関 智弘(東京大学)、辻田 星歩(法政大学)、太田 有(早稲田大学)、二ッ森 俊一(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所)、小林 昭(東京都立大学)、高橋 佑徳(青山学院大学)
NC2無人機・自律飛行システム橋詰 匠(関西大学)、西尾 悠(成蹊大学)、岩城 拓弥(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)、三平 満司(東京科学大学)、稲田 喜信(東海大学)、古川 芳孝(九州大学)
NC3極超音速・推進吉川 孝雄(神戸大学)、笠原 次郎(名古屋大学)、澤田 惠介(山梨大学)、岩熊 成卓(九州大学)、伊里 友一朗(横浜国立大学)、平野 利幸(法政大学)
NC4レーダー・電波吸収・電子戦立居場 光生(徳島大学)、永田 勇二郎(京都大学)、小畑 輝(地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター)、渡邉 卓磨(富山大学)、牛腸 正則(国立研究開発法人情報通信研究機構)、徐 粒(札幌医科大学)
NC5耐衝撃・耐熱・爆発制御 材料西 雅俊(熊本高等専門学校)、佐原 亮二(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、平田 好洋(関西大学)、廣江 哲幸(国立研究開発法人水産研究・教育機構)、大谷 俊博(北里大学)、関沢 好史(東京農工大学)
NC6水中・対潜技術 (海洋観測分野と差別化)渡邊 佳孝(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、坂上 憲光(龍谷大学)、章 ふぇいふぇい(東京科学大学)、山縣 広和(日本工業大学)、武村 史朗(沖縄工業高等専門学校)、入江 博樹(熊本高等専門学校)
NC7耐量子暗号・サイバー防衛奥村 伸也(大阪大学)、藤田 八郎(東京都立大学)、河内 亮周(三重大学)、小柴 健史(愛知学院大学)、青野 良範(国立研究開発法人情報通信研究機構)、山村 明弘(秋田大学)
NC8指向性エネルギー(高出力レーザー・高出力マイクロ波)吉田 実(近畿大学)、道根 百合奈(電気通信大学)、植田 憲一(浜松ホトニクス株式会社)、梶原 健(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)、光藤 誠太郎(福井大学)、今井 剛(東亜大学)
NC9宇宙状況把握(SDA:宇宙監視・軌道決定)西尾 正則(愛知工科大学)、高野 忠(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)、加藤 隆二(愛知学院大学)、有吉 雄哉(日本文理大学)、徐 培亮(京都大学)
NC10誘導・航法(慣性航法・衛星測位・画像航法)辻井 利昭(大阪公立大学)、前中 一介(兵庫県立大学)、渡邉 奎(東京科学大学)、藤原 大悟(千葉大学)、福田 厳(東京海洋大学)、目黒 淳一(名城大学)
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08

自律性・不可欠性・流出抑制が日本の分岐点となる

最後に、展望と反証条件を示す。国際比較を踏まえると、日本の選択は3つの分岐点に集約される。米国はDIUとReplicator構想で商用技術を国防へ取り込み、中国は軍民融合を国家戦略に据えて国防費を30年連続で増やしてきた。EUは欧州防衛基金として2021年から2027年に約73億ユーロを投じ、EDISやEDIPで域内の生産能力を強化する。この潮流のなかで、日本が確立すべき役割は、自律性の確保・不可欠性の獲得・技術流出の抑制の3点にある。

各国の戦略は、それぞれ日本への示唆を持つ。米国のように商用技術を素早く国防へ取り込む回路は、日本のファストパス調達が目指す方向と重なる。中国の軍民融合は、技術流出の抑制という警戒すべき論点を突きつける。EUの域内強化は、国際共同開発と生産基盤の集約という日本の課題と響き合う。主要国の動きを鏡として、日本はどの要素を取り入れ、どの要素を警戒すべきかを見極める必要がある。

本レポートの主張に伴う反証条件

本レポートの主張には、明確な反証条件が伴う。第1に、デュアルユースの双方向活用は、民生と防衛で技術の要求が大きく異なる場合には、期待したほど機能しない。第2に、ファストパス調達によるスタートアップ参入は、制度が整っても実際の発注が伴わなければ絵に描いた餅に終わる。第3に、GCAPを軸とする国際共同開発は、装備移転三原則の5類型撤廃の議論が停滞すれば、日本の不可欠性の獲得が遠のく。これらの条件が外れれば、生産基盤の再建は難航する。

名指しで示した研究チームにも、反証条件がある。これらの技術がすでに主契約企業と少数の大学の閉じた体制で統合されているなら、学術側で新たに束ねる余地は小さい。また、民生の研究者を防衛の要求に接続するには、出力・精度・運用条件の違いを埋める作業が要る。提案したチームは可能性の地図であって、そのまま実装に直結する保証ではない。実際の防衛用途が具体化してはじめて、編成の真価が問われる。

短期・中期・長期の三段の打ち手

打ち手は3段で考えるべきである。短期には、2026年から2029年の量産基盤確立期に照準を合わせ、小型無人機の国内量産基盤とファストパス調達制度を優先して整える。これが最大の投資機会となる。その後押しもあり、回収の見通しが立てやすいこの局面に、資源を集中させることが合理的である。技術の高度さよりも、量を安定して作り続ける力を確立することが、この段階の要点となる。

中期には、2030年から2036年のスウォーム拡張期に向けて、群制御や協調制御の実運用化と、群れのサイバー防御の強化を両輪で進める。技術の拡張と防御を切り離さないことが要点となる。同時に、本レポートが名指しで示した機関横断の研究チームを起点に、材料・制御・推進・暗号といった散在する勝ち筋を、防衛という目的の下に束ね直す。既存の共同研究の延長ではなく、越境の組み合わせを意図的につくることが、この時期の課題である。

自律性・不可欠性・流出抑制の均衡

3つの分岐点を、順に見ておく。第1の自律性の確保とは、装備の中核技術を他国に依存しすぎない状態をつくることである。すべてを自前で持つのは規模の面で難しいが、要となる技術を国内に保つことが、外部の事情に左右されない基盤を支える。デュアルユースの民生技術を防衛へ取り込む双方向の循環は、この自律性を、限られた資源のなかで確保するための現実的な道筋となる。どの技術を国内に留め、どの技術を共同開発に委ねるかの見極めが、自律性の質を決める。

第2の不可欠性の獲得は、国際共同開発のなかで日本が欠かせない役割を担うことを指す。GCAPで日本が確かな要素技術を提供できれば、共同開発における発言力が高まり、装備移転の市場も広がる。第3の技術流出の抑制は、育てた技術が意図せず外部へ流れることを防ぐ課題である。中国の軍民融合が突きつけるこの論点に対し、外国為替及び外国貿易法や経済安全保障推進法による管理が要となる。

これら3つは、互いに緊張をはらむ。技術流出を厳しく抑えれば、国際共同開発での連携は難しくなる。逆に連携を深めれば、流出のリスクは高まる。自律性を追えば規模の不利に直面し、規模を求めれば依存が生じる。日本の防衛産業戦略は、この3つの分岐点のあいだで、そのつど最適な均衡を探る営みとなる。唯一の正解はなく、状況に応じた判断の積み重ねが問われる。だからこそ、需要が政策で決まるこの領域では、政策と技術と人材を同時に見渡す視野が欠かせない。

長期には、2037年以降を見据えて、自律戦闘の実装と規制枠組みの関係を先取りし、国際規範との整合を図りながら制度を設計する。技術が規制と衝突しうるこの局面では、工学の準備と政策の準備を並行して進めることが欠かせない。防衛に資する技術の多くはデュアルユースであり、その担い手は大学と国立研究開発法人に広く存在する。この知を束ねられるかどうかが、政策で決まる需要を国内の生産基盤へ確かに還流させる、最後の分岐点となる。

自律性の確保・不可欠性の獲得・技術流出の抑制が、日本の分岐点となる。

産業創造プロセスで読む — この領域はいま、どの相にあるか

ICFMは、産業の誕生を6つの相と発火前の基盤成熟で捉える枠組みである。防衛産業の7産業を読むと、6産業までが成熟→次世代型の「基盤が厚い」産業であり、唯一、小型無人機対処(カウンターUAS)だけが中核科学の未確立という異質な谷を抱えている。

成熟→次世代核 6 知見の蓄積 1
産業(IIDB)律速軸F / Q / R最大のボトルネック
スタンドオフ精密誘導弾・戦術ミサイル成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3SRM(固体ロケットモーター)供給の寡占と生産能力(EUバックログ44億ユーロ)=サプライチェーン集中。産業創造上の知の
統合防空・ミサイル防衛システム成熟→次世代核1 / 0.93 / +6.5IBCSオープン化(競争単位の分解)と推進能力の囲い込み=寡占構造内の再編。産業創造上の知の谷は無い。宇宙迎撃層は実効性
無人航空機・自律無人アセット成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3レベル4-5完全自律AIの谷。自律制御AI・空戦AI(ACE)・スウォーム制御の専門性の厚み。産業創造上の知の谷は無いが
小型無人機対処・カウンターUAS知見の蓄積0.6 / 0.89 / +4.1★中核科学の未確立=検知〜無力化を貫く技術核(理論/技術移転)。資金では埋まらない知見蓄積側の律速。has_core=0
電子戦・電磁波防護システム成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3律速なし。次世代核の技術移転主導が焦点。
軍用レーダー・防衛センサー成熟→次世代核1 / 0.89 / +6.3律速なし。次世代検知器・フォトニクスの技術移転が焦点。
航空宇宙・防衛機器成熟→次世代核1 / 0.93 / +6.5律速なし(成熟)。実務的律速はセクター動き側の供給能力。

7産業のうち6つが成熟→次世代核の軸に立つ。精密誘導弾、統合防空・ミサイル防衛、電子戦、軍用レーダー、航空宇宙・防衛機器はいずれもF=1.0で、プライム寡占が統合を握る——防空はCR3が事実上90%で、統合点の質Q=0.925は領域内最高である。これらのボトルネックは知の欠落ではなく、固体ロケットモーター供給の寡占やEUバックログ44億ユーロに象徴される生産能力、すなわちサプライチェーン側にある。戦術ミサイルの供給者が13社から3社水準へ集約した歴史が示す通り、産業構造としては完成後の再成長局面にある。

唯一の例外が小型無人機対処で、技術核なし(has_core=0)・F=0.6——検知から無力化までを貫く技術核が未確立のまま、市場が5.2倍成長し17社が併存する断片化した成長期にある。判定上の「基盤が厚い」は寛容な閾値による誤振れで、実態は資金では埋まらない知見蓄積側のボトルネックである。無人航空機も相4の成長期にあり、完全自律のレベル4-5が谷となって参入障壁を再定義しつつある。

もう1つの構造特性として、防衛R&Dの蓄積は政府機関・プライム内部・機密に集中し、民間研究者データベースに接地しにくい。産業創造の欠落位置が「ない」と出る背景には、観測そのものが機密の壁に阻まれるという事情が併存している。

研究者供給の厚みと薄さ — 応用分野別(31.1万人版:本体235,521+サブ76,054)
自律・無人173人
宇宙2,938人
この領域に対応する応用分野の研究者は計 約3,111人。出典:研究者知識基盤 field_class 分類(本体は精緻分類、サブ層はOpenAlex研究内容・所属学科から分類)。

研究者供給は、31.1万人版(本体235,521人+サブ76,054人)のうち自律・無人173人、宇宙2,938人の計3,111人である。ただしこの数字は民生側の近接分野の厚みであり、誘導・迎撃・電子戦といった防衛の中核は機密ゆえに研究者DBへ接地できない、という構造的制約を診断データ自身が明記している。例外は無人機分野で、得竹浩(金沢大)・水野秀樹(東海大)・田中智(JAXA)ら民生無人機の実在研究者が接地できる唯一の産業となっている。

産業創造の余地は、カウンターUASの核形成に集中する。センサーフュージョン・レーダー信号処理、AI-C2による自動交戦割当、指向性エネルギー物理、RF電子戦・妨害波形という4つの専門性を民生側から構成することが、資金投入では埋まらないこの谷への唯一の処方である。無人機では、民生の自律航法・飛行制御の研究者層を軍民両用の基礎層として接続する余地がある。中立の立場からの関与は、防衛産業そのものではなく、軌道力学・レーダー電子工学・自律制御といった民生転用可能な要素技術の研究者接続に限定するのが妥当であり、機密領域には踏み込めないという限界を明示しておく。

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出典・作成:本サマリーは内閣官房「日本成長戦略」関連の公表資料(議事要旨・政府目標・配布資料)および公開された学術・産業データに接地して作成した編集物であり、政府の公式見解ではありません。新研究クラスター構成案の名指し研究者は、研究者データベースおよび機関公式ディレクトリで実在・所属を照合しています(捏造ゼロ)。数値は生成時点の実データです。